【不活化ワクチン】
「不活化」とは本来の働きを失わせる作用です。細菌やウイルスから毒性や感染性を除いてワクチンにします。生ワクチンと違い、投与された病原体は生きていないので増殖しません。インフルエンザや肝炎、日本脳炎などの予防に、不活化ワクチンが活用されています。
【サブユニットワクチン】
生ワクチン、不活化ワクチンの技術をさらに発展させたのが、サブユニットワクチンです。細菌やウイルスの一部を酵母などで人工的に合成して投与するもので、帯状疱疹などの予防に使われています。
【mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン】
新型コロナウイルスのワクチンとして新たに開発されたのが、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンです。mRNAとは、細胞内のDNAが持つ遺伝情報をコピーしてタンパク質をつくる物質で、いわばタンパク質の「設計図」です。ウイルスのタンパク質の一部だけをつくる設計図として加工したmRNAを投与すると、体内で目的のタンパク質がつくられ、それに反応した免疫システムが抗体をつくるという仕組みです。
【ウイルスベクターワクチン】
ウイルスベクターワクチンとは、ウイルス感染症を別のウイルスで防ごうというものです。ベクター(運び屋)として使われるウイルス(ウイルスベクター)は、予防対象とは別のウイルスです。このウイルスを無毒化したうえで、予防対象となるウイルスのタンパク質の一部をつくる遺伝情報を組み入れて運ばせます。ベクターとなったウイルスに感染した細胞は、目的のタンパク質を合成し、体内ではそれに対する抗体がつくられます。新型コロナ用のワクチンが登場する少し前、エボラのウイルスベクターワクチンが開発され、承認されました。
日本で接種できる3種類の新型コロナワクチン
21年3月現在、日本政府が契約したワクチンは、ファイザー社(米国)、モデルナ社(米国)、アストラゼネカ社(英国)製の3製品で、前者2つはmRNAワクチン、後者はウイルスベクターワクチンです。いずれも、従来のように免疫原を体の外でつくって投与するのではなく、体内でつくらせようというコンセプトで開発されています。mRNAワクチンは人類が初めて接種するワクチンで、ウイルスベクターワクチンも新しいタイプのワクチンですので、その仕組みについて少し詳しくお話ししましょう。
体内に入ったウイルスは細胞内に侵入して増殖し、病気を発症させます。これが「感染」ですから、細胞内へのウイルス侵入を防御できれば、感染が避けられるわけです。
新型コロナウイルスの場合、スパイクと呼ばれる外側の突起を利用して細胞内に入ります。スパイクを構成する「S(spike)タンパク質」が、細胞の表面にある「受容体」に結合することで、ウイルス本体が細胞内に侵入するのです。Sタンパク質が「鍵」、受容体が「鍵穴」と考えると分かりやすいと思います。なお、Sタンパク質単体には、毒性や感染性はありません。
先ほどお伝えしたようにmRNAはタンパク質をつくる物質です。その性質を利用して、Sタンパク質だけを合成するように加工したmRNAを使っているのがmRNAワクチンです。これを接種すると細胞内でmRNAがSタンパク質を合成しはじめ、それに呼応して体がSタンパク質を排除する抗体をつくります。抗体はSタンパク質に作用して、受容体との結合を妨害します。いつか本物の新型コロナウイルスが体内に入ってきたとしても、抗体はウイルス表面のSタンパク質に同じように作用するので、ウイルス本体は細胞に侵入できなくなり、感染を阻止できるのです。