mRNA自体は1950年代に発見され、1980年代に人工合成ができるようになりました。ワクチンや病気の治療に使う研究は2010年代から行われ、それを完成させたのがモデルナ社とファイザー社です。mRNAはひじょうに壊れやすく、それだけを体内に入れるとすぐ壊れてしまうため、脂質の膜内に閉じ込めて体内投与します。モデルナ、ファイザー両社のワクチンはどちらも超低温管理が必要ですが、その管理温度が異なるのは、脂質の膜の違いによるものです。副反応も、脂質によって変わります。逆に言えば、人体への負担が少なく、管理しやすい適切な脂質の膜を探しだし、それをうまく加工することがmRNAワクチン開発のキーポイントと言えます。
一方、アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンは、アデノウイルスをベクターとして開発されました。アデノウイルスは一般的な風邪を引き起こすウイルスですが、それを細胞内で複製できないように加工し、新型コロナウイルスのSタンパク質をつくる遺伝情報を組み込んで体内に運ばせます。するとアデノウイルスに感染した細胞内でSタンパク質がつくられ、それに対する抗体もできるので、本物の新型コロナウイルスが侵入しようとしても防御できるのです。
ウイルスベクターワクチンにおいては、ベクターに使うウイルスに「感染」する必要があるので、そのウイルスに対する抗体を持っている人には効果を発揮できません。ベクターとなるウイルスに何を選ぶかがキーポイントとなるでしょう。
ヒトに感染するアデノウイルスはすでに多くの人が感染を体験し、抗体をもっています。そこでアストラゼネカ社はチンパンジーに風邪症状を起こすアデノウイルスをベクターに選び、ワクチンを完成させました。
ちなみにロシアの国立研究機関が開発し、多くの国で使われはじめているワクチン(スプートニクV)もウイルスベクターワクチンですが、こちらはヒトのアデノウイルスを2種類組み合わせており、そのうちの1種類は、今まであまり流行を起こしていないものを用いています。
ワクチン接種の効果と注意点
新型コロナワクチンを接種すべきかどうか、迷っている方も大勢おられることでしょう。私は、すでに接種しました。モデルナ、ファイザー、アストラゼネカのワクチンは、現状ではいずれも新型コロナ感染症の発生予防や重篤化予防に高い効果が得られています。人類にとって未知のワクチンなので、接種から数年後の影響は未知数としか言えないのですが、自分の年齢を考慮すると、「ワクチンを打たない選択肢はない」、というのが私の結論です。
しかし、注意すべき点はいくつかあります。ワクチン接種には副反応が必ずついてくるからです。治療薬にも効果とともに何らかの副作用があるのと同じで、副反応がまったくないワクチンはないというのが大前提です。ただし、日本社会はワクチン接種に対してひじょうに警戒心が強く、副反応が現れるとメディアが一斉にクローズアップする傾向があります。近年で言えば子宮頸がんワクチンが典型例で、日本はこのワクチン接種勧奨をやめてしまいましたが、先進国で子宮頸がんワクチンの接種を勧奨していないのは日本だけです。
新型コロナウイルスのワクチン接種では、アナフィラキシーショックの例が国外から数件報告されています。アナフィラキシーショックとは極度のアレルギー反応ですが、発生頻度は数万人に1人ほどの割合です(注:アメリカのCDC(疾病予防管理センター)の発表(2021年1月)によると、アナフィラキシーショックの例は、ファイザー製で接種100万回あたり11.1件、モデルナ製で100万回あたり2.5件。なおインフルエンザワクチンの場合100万回あたり1.3件とされている)。
アナフィラキシーショックの発生はワクチン接種後30分以内であることが多いため、接種者は30分程度その場所に留まること。また接種を行う側は、エピネフリン(交感神経を刺激し、アナフィラキシーの症状を緩和する薬)など、数種の対応薬を揃えておくことで対処できます。
過去に強度のアレルギーを経験している方は医師に相談するなど注意が必要ですが、軽度のアレルギーがある方や花粉症の方はほとんど心配いりません。
若い方のなかには、感染しても重症化しないので接種しない、と考える方が一定数いるようです。しかし、ウイルス感染による症状がすぐにでなくても、のちにさまざまな後遺症がでるケースがありますので、それを踏まえてワクチン接種を考えてほしいと思います。