格闘技が国民的娯楽に
日本発の世界的にも人気のある格闘技イベントPRIDE(総合格闘技)とK-1(立ち技格闘技)が、2007年3月27日に日本とアメリカでそれぞれ記者会見を開き、世界中の格闘技ファンを仰天させる発表を立て続けに行った。格闘技イベントといえば、大みそかを連想する人が多いかもしれない。01年に「紅白をぶっ飛ばせ!」を合言葉として、アントニオ猪木率いる猪木軍とK-1が全面対決するというコンセプトで開催された「INOKI BOM-BA-YE2001」をTBSが放送したのをきっかけに恒例化、03年には日本テレビで「猪木ボンバイエ2003」、TBSで「K-1 Premium 2003 Dynamite!!」、フジテレビで「PRIDE男祭り2003」と、紅白の裏側で民放3局が格闘技中継を行うという「格闘技バブル」にまで発展した。これは紅白の裏番組でも、格闘技が安定した視聴率をとれたためで03年の「K-1 Premium 2003 Dynamite!!」では、メインイベントの元横綱・曙VS人気絶頂ボブ・サップの試合が瞬間最高43%を記録(ビデオリサーチ調べ)、紅白の視聴率を3~4分間にわたって上回るという史上初の快挙を達成している。
これにより「日本の大みそかは格闘技」というイメージが定着し、日テレの「猪木ボンバイエ」は消滅したものの、04、05年とTBSの「K-1 Dynamite!!」、フジの「PRIDE男祭り」が放映され、スペシャルなカードを組むなどして競い合うことによって話題を提供していった。両団体の通常のイベントも、TBSが魔裟斗をエースとする立ち技格闘技「K-1 WORLD MAX」と、山本“KID”徳郁を中心とするK-1系の総合格闘技「HERO’S」、フジが立ち技格闘技「K-1 WORLD GP」と総合格闘技「PRIDE」をそれぞれ放映し、格闘技は国民的娯楽の地位を確立したわけだが……隆盛はそう長くは続かなかった。
格闘技バブルの崩壊
2006年6月、PRIDEのイベントをレギュラー放映していたフジが、「DSE(Dream Stage Entertainment PRIDEを運営する会社)内で放送を継続することが不適切な事象があったため、契約違反に該当する」との理由から、突如放送を打ち切ったのだ。地上波を失ったPRIDEは、スカパー!でのペイパービュー(PPV)放送、及び熱心なファンたちの観客動員、そしてラスベガス大会の開催などに生き残りを賭けたが、地上波の莫大な放映権料とプロモーションの場を失い、台所事情は苦しかった。そこで活路を求めたのがアメリカの巨大資本へのPRIDE売却だったのである。元祖総合格闘技「UFC」
アメリカでは現在、空前のMMA(mixed martial arts 総合格闘技)ブームが沸き起こっている。その中心となっているのが、オクタゴンと呼ばれる八角形の金網に囲まれたリングを使用している「UFC(The Ultimate Fighting Championship)」だ。PRIDEが旗揚げされた1997年よりも4年早く、93年にアメリカで生まれたUFCは日本でも大きな話題となり、日本からの観戦ツアーが複数の旅行会社で組まれたどころか、NHKの衛星放送でも取り上げられたほど。しかし、ブームが去って日本のPRIDEが台頭してくると、UFCも経営が苦しい状態となり、新しいオーナーに売却されることになる。そのオーナーこそが、今回PRIDEも買収したロレンゾ・フェティータ氏だった。TUFでUFCが大ブレイク!
ロレンゾ氏は、ラスベガスを中心に全米で展開されているステーション・カジノを経営しており、年商は1.2ビリオンドル(日本円にして約1500億円)。このカジノ王がオーナーを務めるズッファ社(ダナ・ホワイト社長)が運営するようになったUFCは、驚異的な躍進を遂げる。まずネバダ州のアスレチックコミッションに働きかけ、それまで開催が不可能だったラスベガス大会を実現。2005年からケーブル局のSpike-TVで、新人ファイターを発掘・育成させるリアリティーショー番組の「The Ultimate Fighter(TUF)」の放送が開始されると、これがM1層(20~34歳の男性視聴者)を中心に爆発的な人気を呼び、全米でUFC人気に火が付いた。当初はTUF卒業生たちに人気が集まり、日本では名前も知られていないような選手が大歓声で迎えられるという現象が起きていたが、次第に鬼教官役を務めていたUFCトップファイターたちの人気も高まっていったのである。人気鬼教官の一人マット・ヒューズと、初期のUFC王者である“レジェンド”ホイス・グレイシーの一戦は、PPV視聴件数が60万件を記録したと言われる(※正確な数字の発表はなく、20万~30万件との説もある)。そして、UFCはプロボクシング、プロレスのWWEを抜き、アメリカのメジャースポーツの仲間入りを果たした。UFCが開拓したMMAマーケットを狙って、巨大資本をバックにしたMMA団体が次々と参入することに。その中には個人資産600億円を持つカルビン・エアー氏がオーナーの、オンラインカジノ・ゲームを運営する会社Bodogが主催する「Bodog Fight」や、ケーブル局SHOWTIMEの「ProElite」なども含まれる。
PRIDEとUFCが合体?
このマーケットにPRIDEも参入し、2度のラスベガス大会を開催したが起死回生とはいかず、最終的に07年3月27日、東京・六本木ヒルズアリーナで行われた記者会見にて、前述のロレンゾ氏が新オーナーに就任することが発表された。つまりロレンゾ氏は、UFCとPRIDE、総合格闘技の二大メジャー団体を手に入れたことになる。この会見にはダナ・ホワイト社長も出席し、PRIDEとの対決をアピール、年に1度、PRIDEとUFCのチャンピオン同士が激突する総合格闘技版スーパーボウルの開催をぶち上げた。ファンにとってはうれしいニュースだったが、さっそく暗雲も立ち込めている。5月20日から開幕する予定だった「PRIDEライト級GP2007」の開催延期が発表され、これまでのDSEから、PRIDEの運営母体が移るはずの新会社PRIDE FC WORLD WIDEに関して、現時点で何のアナウンスもないのだ。PRIDEの次回大会開催の日程も正式発表はなく、PRIDEは沈黙を保ってしまったのである。