日本企業第6位、株式時価総額は8兆円!
まず、株式の時価総額上位ランキングを見てみよう。任天堂は日本企業のトップ10入りを果たしている。1889(明治22)年、紙製品の工芸家であった山内房治郎氏が創業した個人商店が任天堂の起源である。一介の京都の花札・カルタ・トランプメーカーだった任天堂。だが、いまや東京電力よりも、三菱商事よりも、新日本製鐵よりも、松下電器産業よりも、日本たばこ産業(JT)よりも、任天堂は上位にランクされるのだ。ゲーム機のライバルでもあるソニーを抜き、任天堂は日本企業のトップ10入りを果たしている状況だ(2007年7月末現在)。任天堂は「ニンテンドーDS」が発売された05年春から株高となり、一気に時価総額の順位を上げた。売り上げ0(ゼロ)でも給料払えます!
任天堂が07年4月26日に発表した3月期の連結決算は、売上高が創業以来はじめて1兆円台を突破する見通しだ。売り上げが1兆円を超える企業は珍しくない。だが、売り上げとほぼ同規模の1兆円近くの現金・預金を持っている企業は少ない。任天堂は昔から堅実経営で知られる。先代の山内溥社長の口癖は「一寸先は闇」だった。本業以外の多角化は言語道断、社員数も少ないスリムな経営を続けてきた。ゆえに、とてつもなくキャッシュリッチな財務体質なのである。「商品の売り上げがたとえゼロでも預金の金利(運用益)だけで社員の給与を払っていける」は、任天堂をウォッチする金融マンたちの間では、もはや常識となっている。ケータイ並みの普及度「ニンテンドーDS」
さて、好調な任天堂の業績を支えているのは、ご存じのとおり、「ニンテンドーDS」の販売好調のおかげである。「ニンテンドーDS」は発売後、約2年間で1600万台(日本国内)が売れた。これは過去に“よく売れた”とされる、「ファミリーコンピュータ」「ゲームボーイ」「プレイステーション2」など、他の家庭用ゲーム機の普及ペースをはるかにしのぐ、異常に速いペースである。全世界の累計ベースでは、なんと4000万台がすでに売れている。「一家に1台」普及すれば、御の字であるはずのゲーム機だが、「ニンテンドーDS」は「一人に1台」のような売れ方をする。兄弟・姉妹・親子・夫婦が共有するのではなく、家族一人ひとりが1台ずつ所有する、きわめてプライベートな機器として普及している。テレビやビデオデッキというよりは、携帯電話のような売れ方をしているのが、「ニンテンドーDS」なのである。任天堂ソフトはシェア40%超
ゲーム会社にとって、利益率が高い、ソフトの売り上げもすごい。「脳トレ」の流行語を生んだ『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修・脳を鍛える大人のDSトレーニング』は海外でも発売され、シリーズ累計で1200万本も売れる超ヒット作品となった。国内ソフト市場では、06年4月から07年3月末にかけて、総販売本数が100万本を超えた、いわゆるミリオンセラーは13タイトルあるが、そのうち9タイトルが「ニンテンドーDS」のソフトである。そして、すべての家庭用ゲーム機のソフトのうち、任天堂が発売するソフトのシェアは、実に40%を超えている。
任天堂業界の出現だ!
まさに、ハード、ソフトの両面で任天堂は完全なる「ひとり勝ち」状態となったのだ。07年の家庭用ゲームソフト市場は、「約10年ぶりの復調」と、業界専門紙など、各種メディアが報じている。しかし、ゲームソフトがまんべんなくよく売れているのではない。売れているのは「ニンテンドーDS」、儲けているのは任天堂。そう考えていただいて差し支えない。近年、筆者がよく使うレトリックは「任天堂業界の出現」である。もはや、ゲーム業界とは呼べない。目の前に出現したのは“任天堂業界”なのである。