インドのIT産業と英語
現在、インド経済の年間成長率は9%である。この成長は、同国のIT産業と密接な関係がある。専門家によると、インドのIT産業の年間成長率は32%で、390億ドルの収入をあげている。2010年には500億ドルに達すると予想される。インドは2025年までに中国に次ぐ、世界第2の経済大国になるとも言われる。インドのIT産業における優位は当分続くであろう。それはインドが今日、世界最大の若年層人口を抱えているからである。全人口の7割、7億人が35歳以下である。IT産業は常に、創造力と論理力に秀でた若い頭脳が求められる。現在、インドのIT産業は130万人のシステムエンジニアを雇用し、2010年には230万人に増大すると見込まれる。
これには、インド人の英語力が大きな働きをしている。インド人はたいがい、英語でコンピューター技術の教育を受ける。インドの大学はこの20年間で、確実な英語の知識を有し、国際的水準にある技術者を教育してきた。彼らは、英語力を駆使して、世界中のIT産業で働く同年代の同僚とコミュニケーションをとり、仕事上のアドバイスと協力を得ることができる。
今、元気なインド英語
インドは英語を準公用語としており、英語が得意なインド人は国際ビジネスやコラボレーションのきっかけをつかみやすい。インド人の英語は当然のことながら、インド英語である。彼らはインド英語に自信を持ち、けっしてひるむことはない。
インド英語は話し手の教育経験や言語背景などによって、多くの変種に分けることができる。ここでは、教育を受けた人々が日常生活で使い、全国で通じるパターンのいくつかをあげよう。
発音の大きな特徴は、「文字どおりの発音」である。Wednesdayはよく「ウェドネスデー」となる。darkの /r/ も発音するので、「ダルク」となる。mechanism は「メカニスム」が普通である。強勢のない母音もそのまま発音されるので、tallest は「トーレスト」。readiness のような場合は、接尾語に強勢が付き、「レディネス」という。pickedの語尾は /t/ でなく、/d/ となりがちである。二重子音はそのまま二重に発音されることがあり、silly は「シル・リー」のようになる。
自分たちが使いやすい英語にする
インド人は自分たちが使いやすい、独自の英語音韻体系を組み立てた。英米人の発音のまねをしなくてもすむだけ、文法や語彙(ごい)の獲得に勉強時間を費やすことができる。文法の特徴もいろいろある。疑問文を yes/no で組み立てる方法は、よく耳にする。
You are from Japan, yes? / He was helping you, no?
すべての付加疑問を isn’t it? としてしまうこともある。
They are coming tomorrow, isn’t it?
再帰代名詞や only は強調の印となる。
It was God’s order itself.(まさに神の思し召しです)
They live like that only.(それがまさに彼らの生活習慣です)
インド式語彙
インド英語の語彙には、インド式のものがいっぱいある。body-bath は身体を洗うことだが、head-bath というと髪の毛だけを洗うことを言う。condole(お悔やみをいう)はcondolenceから造った動詞で、prepone(予定を早める)はpostpone(延期する)の類推である。
インド社会特有の意味もある。communal(riot)はヒンズーとイスラムの宗教間(騒動)のことを指す。intermarriage は宗教やカーストの違うものどうしの結婚のこと。
また、インド英語には丁寧な言い方が目立つ。your kind information, kind presence, kind encouragement, kind order と、何にでも kind がつく。名前を聞かれるときに、“Your good name, please?”と言われることがある。「お名前は」のつもりだろうが、good name とは恐れ入る。
イギリス臭のない英語が好評
このように、インド英語はインド人の生活に根ざした要素ででき上がっている。そこにはインド人の息吹が感じられる。イギリス人やアメリカ人がこう言わないからといって、これを変な英語と見るのは禁物。おもしろいことに、このようなイギリス臭のとれた英語は、海外でけっこう評判がよい。インドの経済発展にともない、日印関係も進展している。日本人はインド人とつきあうことによって、インド人の英語観から学ぶことが多くあるはずである。
「India Today」誌の調査では、インド人の3人に1人が英語を理解し、5人に1人が英語を話すのに自信があるという。インド人はICT(Information and Communication Technology)と英語力をもって外国企業の誘致をはかると同時に、海外に進出して活躍の場を広げている。インド経済は持続的な成長の基礎を固めており、国際社会での「インド英語」の認知度はさらに高まるものと思われる。