リアル高年齢層はポジティブシニア
国内の化粧品市場が成熟段階にあると言われるなか、メーカー各社が新たに開拓している市場がある。そのターゲットは、美意識の高い50代から60代の団塊世代の女性だ。特に60代女性は、旅行や健康に関心が高く、アクティブなライフスタイルを好む。なりたいイメージも“快活で人柄が魅力的な人”と、一昔前の“おばあちゃん”という印象とは一致しないことが、2008年6月の資生堂独自調査で判明している。資生堂はそんな女性たちを“ポジティブシニア”と命名。スキンケアや美容習慣が定着したことに加え、「年齢を重ねても若々しくいたい」という美意識をもち、“見た目印象”が実年齢よりも若く見られたいと意識する女性が“リアルな高年齢層”であると提唱している。化粧品市場の約2割は60代
その傾向は化粧品の売り上げにもあらわれている。60代女性の化粧品市場は、07年(1~12月)の店頭売り上げベースで約6700億円で、前年比で104%と伸張。国内化粧品市場全体の約19%を占めているが、この後は団塊世代の流入によって、ますますの成長が見込まれている。そんなポジティブシニアのために、業界初となる60代女性に向けたスキンケアシリーズ「エリクシール プリオール」を08年11月に発売したのが資生堂。イメージキャラクターに起用したのは、1966年に資生堂が実施したキャンペーン「太陽に愛されよう」で話題を喚起した前田美波里。ポジティブシニア世代になった今なお、魅力あふれる存在感は、団塊世代の女性から大きな共感を獲得。順調に売り上げを伸ばしている。“50代向け”はもはやタブーではない
一方で、50代女性に向けた化粧品市場も活況を呈している。以前は化粧品に“50歳”と表示することはタブー視されていた。しかし、2000年9月に誕生したカネボウ化粧品のスキンケア「エビータ」が“50才から”と、その対象年齢をパッケージに記載したところ、消費者がその表示を肯定的にとらえて好調なセールスを記録。50代ブランドのパイオニアとして成功を収めた。以降、コーセーの「リライブ バイタルデュー」や、花王の「グレイスソフィーナ」、ロート製薬の「50の恵」など、主要各社の参入を促している。高額化粧品市場も支えるシニア
また、消費の低迷が続くなか、シニア層を中心に伸張しているのが、3万円を超える美容液や5万円台の高機能クリーム等の高価格化粧品だ。エイジングケアへの投資を惜しまない女性たちが市場を支えており、06年にポーラが発売した7万円超の美容液「ザ B.A グランラグゼ」は、発売前に約5万個の予約を獲得。資生堂が1996年11月に発売した高級クリーム「クレ・ド・ポー ボーテ ラ・クレーム」は、2009年2月末で累計販売個数100万個を達成。カネボウ化粧品は08年5月に50代を対象に、“和漢”をコンセプトに据えた高級スキンケア「HANAYAGI」を立ち上げており、美容カテゴリーにおいて“高級スキンケア”という新たなジャンルを確立した。高い化粧意欲へアプローチ
加えて、メーカーが新たに取り組んでいるのが、シニア世代に向けたメークアップ市場の拡張だ。07年にカネボウ化粧品は、50代ブランドとして初めて「エビータ」から口紅を発売。08年3月には、50代~60代を中心とした女性を対象に、メークアップを軸に据えた百貨店ブランド「CHICCA(キッカ)」を誕生させた。団塊世代が20歳前後であった1960年代は、資生堂が業界で初めて“キャンペーン”を実施した時代。それ以降、各社が季節やシーンに応じてトレンド提案を行うようになったため、彼女たちの化粧に対する好奇心は非常に高く、ピンクの口紅やつけまつげといったメークアップの洗礼も受けている。そのため、各社は商品に、唇の縦じわや、まぶたのくすみ感といったエイジングの悩みを解消する機能性を付加。単にトレンドを追い求めるだけではなく、きれいな発色により、若々しい見た目印象へと整えるような仕上がりを追求することで、彼女たちの“化粧への意欲”を再び刺激している。化粧トレンドの新たなブーム
50代から団塊世代の女性たちは専業主婦が多いことが特徴だ。美容文化が急速に発展していった1970年代から80年代にかけて、彼女たちは子育ての時期にあり、自分に対する消費は我慢を強いられる傾向にあった。しかし子育てを終えたいま、彼女たちは再び自分が主役となる時間を楽しんでおり、そんな気持ちや外見をポジティブな状態に高めてくれる役割を化粧品は担っている。シニア世代に向けた化粧品や美容法が充実していけば、心身ともにいきいきと年齢を重ねていく女性がさらに増えていく。今後、化粧品トレンドは、若年層だけに限らず、高年齢層ならでは新たなブームも生まれるだろう。美容に励む女性たちとともに「一生を美しく生きていく」という願いがかなう時代が、ここに到来したのである。