あなたの周りにいる草食系
草食系男子とは、恋愛にも出世にも消費にもガツガツしない、おっとりした男性のこと。いまの20代~30代前半ぐらいまでの男性に多い。自信家で攻撃的な「肉食系」の男性に対して「草食系」と呼ばれる。皆さんの周りにも、きっといるはずだ。夜9時のコンビニで生クリームたっぷりのプリンをうれしそうに買う、スイーツ好きの男子。「昨日、母親と二人で買い物行ったんスよ~」と、何の照れもなく話す男子。営業に向かう日、大事な資料は忘れても、ヘアワックスは忘れない男子。飲み会で、上司がビールを注文しても「僕はカクテルで」と、1杯目から甘い酒に徹する男子。魅力的な女子と二人きりになっても、ドキドキする気配もない男子。……そう、彼らが「草食系男子」なのだ。
物欲も競争欲も強くない
一般に、彼ら草食系は“物欲”が弱い。とくに20代~30代前半といえば、子どものころから身近にファミレスやコンビニがあった世代。中学・高校時代に「ポケベル」を使いこなし、20歳前後でケータイやパソコン(インターネット)での深夜ショッピングにも慣れていた。欲しいモノはいつでも買える、だから焦っていま買わなくてもいいわけだ。競争意欲もあまりない。少し上の「団塊ジュニア(現33~38歳)」ほど人数が多くなく、学校でも「運動会で順位をつけるのをやめよう」などと言われ始めた、「ゆとり教育」直前の世代だから。兄弟も少ないので、家庭でも競争を強いられてこなかった。ゆえに「誰かに勝って、いい思いをしよう」と躍起になることはない。
出世欲もあまりない
競争したがらないのは、仕事でも同じ。昭和の時代、男性の多くは「他人よりいい家に住んで、いいクルマに乗りたい」とあこがれた。だから会社でも汗水垂らして競争し、出世して年収を上げ、少しでもいいモノを手に入れたいと願った。でも草食系男子は違う。バブル消費の“2トップ” と言われる高級ブランドの腕時計やスポーツカーには、ほとんど興味がない。中途半端に出世して、責任を負わされるのも嫌がる。目指すのは、ナンバー1よりオンリー1。地位や年収アップより「キミのおかげで、助かったよ」といった温かいひと言のほうが響く。モテたいともあまり思わない
「女性にモテたい」「エッチ(SEX)したい」との欲求も弱い。好きな女子がいても告白したがらないし、男・女・女の友達3人で“ざこ寝”してもドキドキせずぐっすり眠れる。モテたい、エッチしたいと思わないからこそ、恋愛にもおカネを遣わない。いまや20代男子の6割以上が、デートでもカノジョとワリカン。バブル期の流行語だった「アッシー(君)」のように「デートにクルマが必要」とも考えないから、ローンを組んでまでクルマを買おうとはしない。「乗用車に(あまり)興味がない」と言い切る20代も、約半数にのぼる。「結局は“ケチ”じゃないか」と思う人もいるだろう。確かに当たらずとも遠からず。草食系男子は節約志向が強いから、大抵は「ボーナスをもらったら、まず貯金する」と答える。ランチタイムに手作り弁当を持参する「弁当男子」も、弁当作りの目的はダントツで「節約したいから」。とことん締まり屋さんだ。
見た目にはかなりこだわる
一方で、積極的に消費するジャンルもある。それが、コンビニプリンなどのスイーツや、ファッションやメンズコスメ(男性用化粧品)など “パッと見(見た目)”に関する分野。とくにメンズコスメ市場は、ここ数年右肩上がり。2007年現在の市場規模は、333億円にものぼる。市場を牽引(けんいん)するのは、明らかに20代男子だ。「オトメン(乙男。乙女のような気質をもった男性)」に代表されるように、草食系男子はこれまで女性向けと思われていた商品やサービスにも、抵抗なく手を伸ばす。“男女平等”が当たり前の時代に育ったから、元来「男たるもの」の気負いがない。いまや、床屋でなく美容院に行く男子が、20代の2人に1人。「結婚前にエステに行く(行きたい)」と話す20代男子も、4人に1人にのぼるほどだ。
草食系男子は突然変異ではない
ではなぜ、草食系男子がこれほど増えたのか? 実は、彼らは突然変異ではない。増殖に至るまでには、日本の社会や経済環境が大きく影響を与えていた。若き草食系男子は、経済がイケイケドンドンで急成長を遂げた「高度成長期」や「バブル期」の、原体験がない。バブルの象徴であるディスコ「ジュリアナ東京」の写真を見せても、「聞いたことはあるけど」「テレビの“資料映像”で見たかな」といった反応がほとんどだ。
右肩上がりの日本を知らない草食系男子。彼らはネイルサロンで爪を磨くと「違う自分になれそう」と笑う。トイレで長々と髪形を整えて「よし、決まった」と胸を張る。そう、彼らは自分に自信がない。いい時代を知らないから、頑張った先にいいことが待っていると思えないのだ。だからせめて“パッと見”を磨いて、自分の内面に自信を持ちたい、と考える。オシャレに関心が高いのも、そのせいだ。
将来不安も、上の世代よりはるかに大きい。競争が苦手なのも、恋愛しても告白しないのも、傷つくのが怖いから。海外旅行など見知らぬ場所に行きたがらないのも、家族や「ジモ友(地元の友達)」と仲がいいのも、「会社や国は守ってくれない」「でも身近な家族や友達は、きっと守ってくれる」と信じているから。「KY」に敏感なのは、そんな身近な人たちに見捨てられるのを、何より恐れるからだ。
新たな価値観で日本の未来を変える
草食系男子を「覇気がない」とけなすのは、たやすい。でも競争嫌いで締まり屋な彼らを育てたのは、バブル崩壊後の日本だ。それに彼らは、必ずしも憂うべき存在ではない。メンズビューティーなど新たな市場を牽引しているし、おっとりした癒やし系で家族にもカノジョにもやさしい。モットーは「みんな仲良く」、自分さえよければとは考えにくいから、地球環境(エコ)やボランティアにも関心が高い。いまもなお、昭和の価値観で「作ればいい」「売ればいい」と、むやみに箱モノや大量生産・大量消費をあおる「肉食系」と、周りや地球に配慮して「欲しいモノは買わない」と守りを貫く草食系。どちらが時代に合っているかは、明らかだ。
私も含めた上の世代は、草食系の発生を嘆くより、彼らの新たな価値観に目を向けよう。当の草食系男子の皆さんも「僕、草食系です」と堂々と名乗り、新たな消費にどんどん手を伸ばしていって欲しい。競争主義(肉食系)に行き詰まりが見えた、いまの日本。新たな未来をもたらすのは、癒やし系の草食系男子にほかならないのだ。