開幕2連勝の快挙
「世界一」。プロゴルファー宮里藍は、その目標をしっかり視界にとらえている。日本にいたころは、「夢」でしかなかったが、今、それが現実になろうとしている。2010年シーズンは、最高のスタートを切った。アメリカの女子プロゴルフツアーに参戦5年目。開幕戦の「Honda-PTT LPGA THAILAND」で、最終日に6打差3位から首位スサン・ペテルセンを猛追し、最終18番で起死回生のチップインバーディーを奪い、通算21アンダーで逆転優勝を決めた。
続くシンガポールでの「HSBC Women’s Champions」では、最終日に首位タイでスタートし、混戦を抜け出した。連続ボギー発進で後退するも、11番からの3連続バーディーなどで再浮上。69で回り、通算10アンダーで2位に2打差をつけて開幕2連勝を飾った。アメリカ女子ツアーで過去開幕2連勝を達成した選手は4人いるが、全員が世界殿堂入りしている。余裕の笑みで同組の上田桃子らと抱き合う姿には、すでに女王の風格が漂っていた。
磨きがかかったアプローチショット
メンタルトレーニングの効果が出た。08年限りで現役引退した元女王、アニカ・ソレンスタムを教えた2人のメンタルコーチと、昨年(09年)から契約した。今季開幕前はミスショットしても笑顔を保つ強い心を目標にトレーニングを積んだ。2連勝を決めた試合後も「後半は集中力も高まって、いいパットがたくさん決まった。集中して、地に足をつけていたから入った」と笑顔で振り返った。技術面では、アプローチに磨きがかかった。日本で優勝を重ねていたころから、アプローチ、パットには定評があった。しかし、アメリカ女子ツアーを主戦場にしてからは、飛距離の向上、球筋のバリエーションを増やすことを重視するあまり、小技の練習が不足気味になり、持ち味を生かし切れないでいた。結果、本来のゆったりとしたスイングリズムが崩れ、07年シーズン後半から08年シーズン序盤にかけてのスランプに陥った。だが、それらを克服した上で、09年夏にフランスの「Evian Masters」で悲願のアメリカ女子ツアー初優勝をつかみ取った。
女子ゴルフ界きっての飛ばし屋、ソフィー・グスタフソンとのプレーオフを制す決め手となったのは、バンカーからのアプローチショットだった。この優勝と賞金ランク3位となった09年を振り返った宮里は、父でコーチの宮里優氏と話し合い、シーズン後のオフに行われたアメリカのアリゾナ合宿でアプローチの強化に取り組んだ。宮里自身も「(09年賞金女王の)申ジエは飛距離があるわけではない。小技とパットがうまい。そこを縮めるのが(世界一への)近道」と分析していた。
1日6時間の練習のうち、半分は100ヤード以内のアプローチを特訓した。すると、合宿終盤では、100ヤードからでも1、2ヤードの誤差しか出ないほど、ショットの精度は完ぺきに仕上がったという。「オフから最高の仕上がりで、今までで一番いい状態だった。試合でも距離感は合っていたし、自分の感性を信じることができていたのは大きい」と優氏も開幕2連勝を喜んだ。
目指すは年間MVP&メジャー制覇
これ以上ない好発進で、1987年の岡本綾子以来23年ぶりの日本人選手によるアメリカ女子ツアー賞金女王も現実味を帯びてきた。世界最高峰ツアーの賞金女王となれば、「世界一」と位置付けられる。だが、宮里はそれよりも、各試合の順位をポイント化し、加算して決まる「年間最優秀選手賞」と「メジャー優勝」にこだわりを持っている。日本人プロゴルファーの世界メジャー大会制覇は、男女を通じて樋口久子による77年全米女子プロゴルフ選手権(LPGA Championship)優勝の1度きりだ。「メジャー優勝はしたい。ただ、年間最優秀選手賞の目標を持つことで、自分の中の消化試合がなくなる。結果としてメジャー大会制覇も視野に入ってくる」と宮里は話す。優氏は「技術だけでなく、精神面も含めてトータルで力がついてきて、メジャー優勝を狙える世界の20人には入った。英語も上達して、生活や試合でのストレスもなくなってきた。勝つには運も必要ですが、普段通りのプレーをしていけば、メジャー優勝も現実的になってくると思います」と話す。かつてアイドル的人気で話題だった「藍ちゃん」は、今や「AI MIYAZATO」として、世界で名をとどろかせている。「世界一」になる日は、そう遠くない。