愛され方は想像以上!
日本が世界から愛されていると耳にしたとき、ピンとこない人が多いかもしれない。あらゆるジャンルで世界における日本の相対的地位が低下していることが新聞や雑誌をにぎわすことはあっても、その逆を日本人が目にし、耳にする機会が少ないからだ。
たしかに、たとえば家電などは韓国企業のパワーが世界を席巻しているのは事実である。私は現在、1年のかなりの日数を世界各国で過ごすことが多い生活を送っているが、ホテルの液晶テレビは韓国メーカーであることが圧倒的に多い。
では、いったいどんなジャンルで、どんなふうに日本は愛されているのだろうか。
それは「アニメ」を筆頭にした日本のポップカルチャーと言われるジャンルであり、しかもその熱狂的な愛され方はおおかたの日本人の想像以上である。
テレビなどでもたびたび報じられる機会が増えてきたのでご存じの方もいると思うが、毎年7月パリで開催される「ジャパン・エキスポ」の2010年の来場者数は17万人だった。日本のアニメやマンガ、ファッション、音楽を紹介し、その関連商品が販売されるブースが並ぶ、フランス人によるフランス人のためのイベントに、会場の展示場の空調が効かなくなるほどの人が集まってくるのである。規模の拡大とともに近年、周辺諸国からの来場者も激増している。
世界でも希有な存在
ところで、こうした日本ポップカルチャー紹介イベントは、なにもパリだけのものではない。世界で1万人を超える同様な日本紹介イベントはもはや珍しくもなんともないのである。私がゲストとして参加したり、企画にかかわったイベントだけでも、イタリア・ローマの「ROMICS」(2009年7万5000人)、スペイン・バルセロナの「サロン・デル・マンガ」(2010年6万5000人)、ブラジル・レシフェの「日本市」(2009年4万人)、ハワイ・ホノルルの「カワイイコン」(2010年1万5000人)、アメリカ・ボルティモアの「オタコン」(2010年2万9000人)といった具合だ。ほぼ毎週のように世界のどこかで日本ポップカルチャー紹介イベントが開催されている状況なのだ。
世界中で、その国をテーマにしたイベントが毎年定期的に開催されるような国はまちがいなく日本以外に存在しないだろう。
だが、パリのジャパン・エキスポを除いて、こうしたイベントで日本人の姿を見かけることはほとんどない。日本のマスコミで紹介されることもない。こうしたイベントは日本人の知らないところで、とくに21世紀に入ってから急速に世界に拡大していっていたのである。
世界の若者はアニメで育つ
その牽引役こそが「アニメ」だ。世界の人が「ANIME」と言うとき、それは日本の商業アニメーションのことを指す。日本製のアニメーション「ANIME」はそれだけ特別な存在なのである。
その理由は、日本のクリエイターたちが、「アニメーションは子どもが見るもの」という常識をいっさい無視して、アニメを映像表現のひとつの可能性と考えて、創っていることにある。「セーラームーン」や「ポケモン」や「ドラえもん」で育った世界の若者が高校生、大学生、さらには大人になったとき、日本のアニメが彼らにますます浸透していくのはスポンジに水が吸い込まれるようなものだったのだ。
私が海外で文化外交活動をしていると現地のメディアから取材されることが多いのだが、その際こんなことをよく聞かれる。
「日本のアニメやマンガが、私の国の若者の人格形成や恋愛観に少なからぬ影響を与えているのはご存じですよね? ところで、そのことを日本人自身は知っているのですか?」
いま世界の若者は明らかに日本のアニメを見ながら大人への階段をあがっていっている。しかも、日本人自身の知らない間に。
ロシアの20代前半の女性にこんなことを言われたことがある。
「日本のアニメは平和へのプロパガンダとしてもっと活用されるべきだと思う」
日本のマンガ・アニメには、国境がない、戦争の無意味さを教える、多様性を認める、可能性と自由がある、伝統とポップが共存している。これが、日本のアニメ、さらにいえばそれを創り出している日本という国への、世界の若者がもつイメージだ。
「日本は日本にしかできないものを創る国だと思います。日本ほどモノづくりに対して真面目な国はありません」
こんな発言をするのはアニメファンばかりではない。その国を代表するようなアーティストたちもそうした発言を繰り返している。
日本にしかできないこと
21世紀に入って、世界にもっとも広がった日本語に「カワイイ」がある。世界の若者は自国の言葉のなかに当たり前のように「カワイイ」を入れ込んで使う。英語の「キュート」やフランス語の「ミニョン」といった言葉と微妙に意味が違う“日本的な”ものに、このワードは使われていると言ってもよいだろう。世界が認識する「メイド・イン・ジャパン」は21世紀に入って大きく変わった。いま、それを世界がもっとも意識するのは「アニメ」であり「カワイイ」だ。そして、その根底にあるのは“オリジナルなもの”を創り出した日本への、若者たちの敬意だ。
閉ざされた環境で独自の進化を遂げた技術やビジネスモデルを指す「ガラパゴス化」はネガティブな意味で使われることが多いが、その逆でいまこそ日本はガラパゴス化を推進すべきなのではないだろうか。世界は日本発の次のオリジナルを、首を長くして待っている。