「正義の味方」にあらず
「ヒーロー」=「正義の味方」。この定義を疑う人は、まずいないだろう。では、1971年に誕生した『仮面ライダー』は正義の味方か? 答えは、主題歌最後に流れるナレーションの中にある。仮面ライダーがショッカーに改造された改造人間であることを説明するナレーションには、正義という言葉は一切出てこない。ライダーが戦う理由は、正義ではなく「人類の自由のため」だ。
これこそが、少年時代に第二次世界大戦を経験したスタッフのこだわりだった。「正義という言葉だけは使いたくなかった。ヒトラーみたいな独裁者だって『正義』を唱えるから」とは、同シリーズの平山亨・元東映プロデューサーが折に触れて口にする言葉だ。自分が絶対的な正義と思うからでも、ショッカーが異形の集団だから戦うのでもない。人々が平和な暮らしを享受する自由を奪おうとするから、仕方なく戦いを挑む。それが仮面ライダーなのである。
泣きながら戦う
仮面ライダーの戦いは泥くさい肉弾戦だ。負けを喫せば、スポ根顔負けの特訓に臨む。第31話「死斗!ありくい魔人アリガバリ」(71年10月30日放送)では仮面ライダー2号・一文字隼人が怪人アリガバリに苦戦、ライダーファンの少年が重傷を負ってしまう。「ライダーが負けた」と病院のベッドで譫言(うわごと)を言う少年を見て自責の念にかられた隼人は「戦う自信がない」と戦意を喪失。それに対し「おやっさん」こと立花藤兵衛は平手で隼人の頬を打ち、「たった一人の子どもの願いも叶えてやれずに、やれ正義だの人類を守るだの、でかい口をたたくな」と言うのだ。
この言葉に発奮した隼人は特訓で新必殺技を編み出し、怪人に勝利。仮面ライダーの姿のまま病院に現れ、病室の窓越しに少年に勝利を報告、「君も頑張れ」と激励する。
なんとも人間くさく、そして現実の生活と地続き感のあるヒーローではないか。傷を負ってのたうち回り、少年に勝利報告をするライダーの面には表情がないはずなのに、悔しさや悲しさ、喜びがにじみ出ている。
ちなみに、最近ではライダーの面の目の下にある黒い部分は、原作の故・石ノ森章太郎が涙をイメージしたとの解釈もあるとか。言われてみれば、同じく石ノ森ヒーローであるキカイダーにもイナズマンにも、目の下に涙のようにも見える一筋のラインがある。実際、石ノ森ヒーローは、孤独に耐え、殴った拳の痛みに耐え、まさに泣きながら戦っているように見える。となると、あのラインはヒーローが流す涙なのか。ご本人に伺ってみたかった。
込められたウルトラのメッセージ
仮面ライダーに先駆け、66年から放送が始まった『ウルトラマン』。製作はカラーだが、同年の経済白書によると各世帯へのカラーテレビ普及率はわずか0.3%。だから、カラータイマーの色が変わると、「青から赤に変わった」というナレーションがわざわざ流された。ウルトラシリーズには、軍拡競争やベトナム戦争、差別など時事を反映した作品が多い。
中でも『ウルトラセブン』第42話「ノンマルトの使者」(68年7月21日放送)は出色だ。海底に先住民族・ノンマルトがいたという情報がもたらされ、ウルトラセブンは「もし本当に先住民族がいたなら、自分は地球人という侵略者の協力をしていることになる」と悩む。返還前の沖縄からやってきたシナリオライターの故・金城哲夫がこの作品を書いたことを知る時、作品に込められた深いメッセージに思いを馳せずにはいられない。
もちろん、怪獣ブームに熱狂した当時の子どもたちがそうしたメッセージすべてを理解できていたとは言い難い。しかし、蒔かれた種は時を経て花を咲かせ、やがて実を結ぶ。
『ウルトラマンA(エース)』最終回(73年3月30日放送)で、宇宙に去りゆくAが語った「優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえ、その気持ちが何百回裏切られようと。それが私の最後の願いだ」と語りかける名台詞が、Aの声を担当した納谷悟朗の訃報がもたらされた日、ツイッター上で拡散されていくのを見て、改めてそう実感した。
国際婦人年に誕生
38年間、ほとんど切れ目なく続いているのがスーパー戦隊シリーズだ。これほど長期間続く1年間完結の連続ドラマは、戦隊以外では大河ドラマだけである。同シリーズの大きな特徴は、それまで男性の補佐役にすぎなかった女性を初めて本格的に戦うヒロインとして描いたことだ。奇しくも、初代『秘密戦隊ゴレンジャー』の放送がスタートした75年は国際婦人年であり、イギリスで保守党に初の女性党首となる故・マーガレット・サッチャーが誕生した年であった。
シリーズは38年間の世相の変化を写し出す。映画『サタデー・ナイト・フィーバー』(78年公開)でディスコブームが起きればヒーローも踊る『バトルフィーバーJ』(79年)、84年のロサンゼルス・オリンピックに向け新体操ブームが起きれば新体操技で戦う『大戦隊ゴーグルV(ファイブ)』(82年)と、折々の流行を取り込み、進化を続けてきた。
中でも異色なのは『超新星フラッシュマン』(86年)だ。81年に初来日した中国残留日本人孤児をモチーフにしているのである。宇宙にさらわれた子どもたち=フラッシュマンが、地球に親探しに来る。しかし、長い宇宙暮らしのため、次第に体に地球に対する拒否反応が出てしまい、親と巡り会えぬまま宇宙に去る。当時のニュースでたびたび流れた、親に会えず肩を落として帰国していく孤児たちの姿が、そこには重ねられた。
「憎むな殺すな赦しましょう」
第二次世界大戦後初の国産テレビ特撮ヒーローは、58年に放送が始まった『月光仮面』である。川内康範が世に送り出したヒーローは「憎むな、殺すな、赦(ゆる)しましょう」を掲げていた。放送が始まった2月24日の読売新聞を見ると、「中学生の暴力グループ全校のガラス千枚割る」「中学生4人組高校生を切る」「銀座で4人刺される グレン隊行きずりのケンカ」という見出しが、まだ豊かさには遠い時代の日本の、すさんだ子どもたちの様子を伝えている。
現代の感覚では「赦す」は甘いように思えるが、時代背景を重ねてみると、荒れる子どもたちを赦し、寄り添い、そして導くヒーローが必要だったことが見えてくる。
時は流れ、平成の日本は月光仮面の時代と比べれば経済的にはるかに豊かになった。
『ウルトラセブン』の見どころ
『ウルトラマン』に引き続き製作された。遊星間侵略戦争により地球が狙われているという設定で、時代設定は1980年代後半。SF色を強めた作品で、現在も幅広い年代に支持されている。地球人同士の信頼関係にひびを入れることで地球を侵略しようとしたメトロン星人が登場する第8話「狙われた街」(67年11月19日放送)や大国間の軍拡競争の無意味さを皮肉った第26話「超兵器R1号」(68年3月31日放送)などの異色作を多数輩出した。第31話「悪魔の棲む花」(68年5月5日放送)には子役時代の松坂慶子が出演している。また、団体からの抗議を受け、第12話は欠番となっている。
『ウルトラマンA』の見どころ
円谷プロのウルトラシリーズ第5作。ヤプールの魔の手から地球を守るため、北斗星司と南夕子の2人がAに変身して戦う。男女が合体して変身するという画期的なアイデアだったが、設定を生かし切れず、南は月星人の末裔であり月に帰ったというストーリー展開で、第28話「さようなら夕子よ、月の妹よ」(1972年10月13日放送)をもって途中降板している。ウルトラ兄弟の客演やウルトラの父登場も話題を呼んだ。
『秘密戦隊ゴレンジャー』の見どころ
現在まで37作続くスーパー戦隊シリーズの第1作で、本作と第2作の『ジャッカー電撃隊』は石森章太郎(当時)原作。地球侵略を狙う黒十字軍に対抗するため、国連が作った組織イーグルの日本組織がゴレンジャーを結成し戦う。5人が見得を切る場面は、歌舞伎の「白浪五人男」から。野球仮面や機関車仮面など、ユニークな怪人が登場するのも特徴。また、初代キレンジャーがカレー好きであることはあまりにも有名で、後のシリーズで黄色を演じた役者は必ずと言っていいほど、周囲から「カレー食べるの?」と聞かれることになった。
『バトルフィーバーJ』の見どころ
スーパー戦隊シリーズ第3作。エゴス教を信奉する秘密結社エゴスと戦う、国防省とFBIから集められた精鋭部隊がバトルフィーバー隊。シリーズで初めて巨大ロボ「バトルフィーバーロボ」が登場、巨大戦を展開した。紅一点のミスアメリカはアメリカのマーベル・コミック社のキャラクターを原案とした。バトルケニアを演じた大葉健二は、『宇宙刑事ギャバン』など数々のヒーローを好演している。
『大戦隊ゴーグルV』の見どころ
スーパー戦隊シリーズ第6作。暗黒科学帝国デスダークと戦う。戦隊は未来科学研究所という民間組織により任命された。戦う仲間には、当時まだ普及していなかったコンピューターを扱う少年少女コンボイがいる。華麗な新体操技に加え、ゴーグルピンクに変身する桃園ミキを演じた大川めぐみの可憐さはいまだに語りぐさとなっている。
『超新星フラッシュマン』の見どころ
スーパー戦隊シリーズの第10作。改造実験帝国メスにより宇宙にさらわれ、フラッシュ星で育った5人の子ども達が、親探しのためにやってきた地球で、地球侵略をたくらむメスと戦う。しかし、フラッシュ星で育った彼らは、地球の環境に順応できず、次第に「反フラッシュ現象」と呼ばれる症状を起こすようになってしまう。本作からもともとのロボットの他に新ロボットが登場するようになる。前々作の『超電子バイオマン』から、女戦士は2人となっており、映像的に華やかになっているところも見どころだ。
『月光仮面』の見どころ
悪事のあるところにバイクに乗って現れ、困っている人を救う国産初のテレビ特撮ヒーロー。川内康範作詞の主題歌「月光仮面は誰でしょう」も大ヒットした。モノクロで不鮮明な画面が、怪談にも似た不気味な雰囲気を醸し出す。ヒーローものの「原型」がなかった時代の試行錯誤が伝わってくるほか、敗戦の爪痕残る東京の風景も見どころだ。
『ウルトラマン』の見どころ
『ウルトラQ』に続く円谷プロのウルトラシリーズ第2作。M78星雲からやってきたウルトラマンが、地球人ハヤタと一心同体となり地球を守るために戦う。円谷プロの特撮技術を結集した映像は、いまだに色あせない。宇宙開発競争の犠牲となった宇宙飛行士が怪獣ジャミラになってしまう第23話「故郷は地球」(1966年12月18日放送)など、時事色の強い作品も。ウルトラマンがゼットンに倒され、宇宙に帰って行くという最終回「さらばウルトラマン」(67年4月9日放送)も衝撃的。
『仮面ライダー』の見どころ
地球侵略を狙う悪の秘密結社ショッカーによって改造され、脳改造直前に脱出した本郷猛=仮面ライダー1号が戦う。本郷を演じた藤岡弘(現・藤岡弘、)の撮影中の事故による大ケガという事態により、佐々木剛演じる仮面ライダー2号が登場することになる。これが奏功し、現在まで続く人気シリーズとなった。1970年代のライダー人気は圧倒的であり、ライダーキックを真似してケガする子どもが続出。番組で「真似をしないように」と呼びかける異例の事態ともなった。悪の大首領の声を演じたのは先頃亡くなった納谷悟朗。