「仲間の多くは、15歳から21歳という若さで死んでしまった。世の中のことを、よく分かっていなかった。空想の世界に生きていたんだ……」
生き残った青年は、自分と同じ境遇にあるスラムの子どもたちの面倒を見たり、年下の少年たちにギャングにならないよう働きかけることで、社会に吹き荒れる暴力の嵐を鎮めようと奮闘している。
ネリ青年と異なり、信仰心に目覚めたのが刑務所の中だったアンジェロはまず、自らの心に愛を取り戻すことに専念し、周囲の囚人たちにも神の言葉を伝えながら、かつてないほど平穏な獄中生活を送っていた。最初は大悪党の変身に不信感を抱く者もいたが、彼の本気度が伝わるにつれて、疑いは解かれた。現代のマラスもそうだが、重い罪を背負っていると心の奥で自覚している者たちは、社会の誰も自分を許してはくれないと知る分、本気で神の許しを得ようと努力する人間を傷つけようとはしないようだ。
「刑務所に入って最初の4年間は悪魔の息子として過ごしましたが、残りの年月は神の子として生きようと考えました」
そして毎週訪ねてくる牧師らと共に、聖書の勉強と囚人たちへの説教に励む。また、普段の生活の中でも、麻薬売買を仕切り、指示を飛ばし人を使うことで権力を誇示していた男が、悪事から手を引き、慎ましく過ごすようになっていった。彼にとって、日々の暮らしそのものが、教会の人々や信仰に目覚めた囚人仲間と歩む、神の許しへの長い道のりだった。
アンジェロは周囲に支えられ、順調に歩みを進めた。ただ、自分の罪深さは重々承知していたため、いつ終わるとも知れぬ獄中生活の中、心のどこかで「自分にはムショ暮らしのほうが似合っている」と思い続けていた。何せ複数の窃盗以外に12件もの殺人罪に問われていたのだから、当然だろう。全部求刑通りの実刑判決が出れば、一生シャバには戻れないかもしれなかった。
「ところが刑務所生活8年目が過ぎたある夜、神が私にこうおっしゃったのです!“まもなくそこから出られるようにしてあげましょう”」
それから数日後、彼は担当のソーシャルワーカーから、最終的な判決で刑期は計15年になったと伝えられた。
「つまり、あと7年で刑期を終えられるということでした!」
満面の笑みを浮かべるアンジェロを前に、私は思わず、「な、なぜそうなるんですかぁ?」と、問い返した。12件もの殺人罪に問われていて、たとえそのうちの何件かが無罪になったとしても、刑期がたった15年で済むなんて、信じられない。賄賂とか何とか、裏のからくりがあるのだろうか?
「万事、私を担当してくれたソーシャルワーカーの女性のおかげでした。というのも、大半は証拠不十分で無罪とされたのですが、最も重大な殺人事件については彼女が、私が殺したのではないという証拠を示してくれたのです。被害者が私に大けがをさせられたのは確かだが、そのあと救急車で病院へ担ぎ込まれて死亡したのは、病院の治療ミスで、私が殺したことにはならないと証明したそうです」
彼の答えに、私の疑問はさらに膨らんだ。一介のソーシャルワーカーにそんなことができるのか?
「私も彼女が一体何をどうしたのか、まったくわかりません!」
うれしそうに、しかし自分も不思議に思っているんだという様子で、アンジェロが肩をすくめる。
「でも確かなことは、私の罪は殺人1件と強盗1件のみで、懲役15年という判決になったということです。まさに神の慈悲の現れでしょう」
司法制度がいい加減なラテンアメリカの国々では、確かに何でも起こりうる。裁判官を買収すれば、殺人犯が全員無罪になることだって可能だ。が、それにしても、アンジェロを担当したソーシャルワーカーの女性の行動には驚かされる。もしかすると彼女は、長年の観察を通して、この青年が明らかに変わったと確信し、チャンスを与えれば今度こそ人の役に立つリーダーになってくれるのではないかという期待を抱いて、減刑に奔走したのかもしれない。そしてその判断に、間違いはなかった。
(第6回に続く)