東 経済的な負担も男性には掛けないことを前提としています。現在、その方向で新たに話し合いを進めているところです。
妊娠するための方法
――精子提供者の男性と合意に至ったら、次は妊娠のための準備ですが、どのような方法で行うのでしょうか?東 私たちがチャレンジしているのは、自宅でシリンジ(注射筒)を使って妊娠する方法です。まさにDO IT YOURSELFです。排卵日に提供者から精子を受け取り、それをシリンジに移し替えて自分の手で膣に入れるんです。
増原 この方法はレズビアンカップルの先輩方も多く実践されていて、何組もの成功例があります。なぜ私たちがこの方法を採るかというと、日本では、不妊治療や生殖補助医療は基本的に婚姻した男女のカップルであることを条件に行われるからなのです。これは法律上の決まりではなく、日本産科婦人科学会の見解に基づくものです。レズビアンカップルであることをカミングアウトしたうえで治療が受けられる所は見当たりません。もちろん、病院で人工授精ができれば、その方が衛生面や安全面でも安心ですし、成功確率も高まるのですが、私たちは自分たちのセクシュアリティを隠さずに妊活をしたいので、シリンジ法を選択することにしました。
東 妊娠した後はどこの病院でも妊婦として診察が受けられますから、人工授精の部分のみDIYでチャレンジしよう、ということです。シリンジ法は何もレズビアンカップルだけが用いる方法ではなく、何らかの理由でセックスが難しい異性カップルもこの方法を試し、赤ちゃんを授かっている方々も多いようです。
増原 まずは年上の私から先にチャレンジしてみよう、と思っています。
子どもには何事も隠さない
――子どもが生まれたら、どんな家庭にしたいと考えていらっしゃいますか?東 私たちが決めているのは、子どもには出生にまつわる情報を隠さないことです。あるアンケートでは、AID(非配偶者間人工授精)で妊娠・出産されたご夫婦の大半が、子どもには真実告知をしない、と答えていらっしゃるそうです。異性カップルの場合は、生物学的な親が別だとしても、家庭にパパとママがいれば精子や卵子の由来を隠しやすいです。それが一つの理由になっているのではないかと思います。ですが私たちは女性同士で、お母さんが二人という家庭になる。他の家庭との違いは、2~3歳になれば分かること。だからこそ、出生については秘密にせず、小さいころからわかりやすく説明していくことが必要だと思っています。
増原 日本ではまだ少ないのですが、こういった内容を子どもに伝えるための絵本を、パリのゲイタウン、マレ地区やニューヨークでたくさん見つけました。フランス語のもの、英語のもの、山ほど買ってきたよね。
東 日本語に翻訳されているものだとアメリカの『タンタンタンゴはパパふたり』(2008年、ポット出版)というペンギンのお話や、イタリアの『たまごちゃん、たびにでる』(2013年、イタリア会館出版部)もあるよね。子どもの発達に合わせて、こういった絵本を使いながら上手に教えていきたいです。
増原 それが私たちの約束事ですね。
東 どんなことであっても家族の中ではできるだけ秘密がない方がいいと思う。だから、生物学上の父親になる人とも定期的に会ってほしい。
増原 うん。この人が手伝ってくれたから、この人のおかげで自分が生まれているんだ、ってことを知ってほしい。
東 誰から自分が生まれてきたのかということを分かっている方が、子どもも安心できるんじゃないか、と思うんです。
増原 そういった具体的なことは精子提供者の方と常に話し合いを続けていかなければならない部分です。
東 みんなで話し合いができる信頼関係をしっかり結んでおくことが一番大事だね。
レズビアンカップルの妊活(2)へ続く。