お二人のように、「産める性」同士のレズビアンカップルは自力で「妊活」できるけれど、ゲイカップルが家族を得る道はより困難なはず。代理出産に挑戦中の、みっつんさん、リカさんというゲイカップルの体験談を通して知った共通点と相違点、そして考えたこと、感じたことを語っていただきます。
ゲイカップルも家族が欲しい!
――同性カップルが子どもを持つということについて伺いたいと思います。お二人も現在、妊活に取り組んでいらっしゃいますが、最近、新たな発見があったとか。東 はい。先日、ゲイカップルとして子どもを持つための準備をしている、という方とお目にかかる機会がありました。日本人のみっつんさんと、スウェーデン人のリカさんといって、国際結婚をしていらっしゃるお二人です。みっつんさんからお話を伺ったところ、目が開かされる思いがしたんです。
【みっつんさんとリカさんはスウェーデンの法律で同性婚し、現在はロンドンに暮らしている。おふたりは現在、子どもを持ちたいと願い、実現に向けて挑戦中。具体的には、第三者から卵子提供を受けてカップルどちらかの精子と受精させ、卵子提供者とは別の代理母(サロゲートマザー)に受精卵を妊娠・出産してもらうという代理出産(サロガシー)の方法だ。みっつんさんとリカさんのカップルは熟考を重ねたうえでアメリカの代理出産エージェンシーを通してこの方法を実現させようとしている】
――みっつんさんからもお話を伺いました。レズビアンカップルの妊活と、ゲイカップルの場合とでは共通点もあれば異なる点もあり、考えさせられる内容だという印象です。
増原 妊娠できる可能性がある体かそうでないかというバイオロジカルなところで、やはりレズビアンカップルとゲイカップルとでは子どもを持つまでの過程が違ってきますよね。みっつんさんのお話を聞いたときの最初の印象は、ゲイカップルは私たちより大変だ、ということでした。大変だろうな、とは以前から思っていましたが、実際にお話を聞くと想像を超えて大変だった。
東 レズビアンカップルには子どもを持っている人がこれまでにも少なからずいて、私たちのよき先輩になってくれています。でも、ゲイカップルで子どもを持っている人というのは、圧倒的に少ない。自分たちが子どもを持とうとしたときに、ロールモデルになってくれる家族が見当たらない。それはとても大変なことだと思います。
増原 私たちも、「子どもを産もう」と思うまでには紆余曲折がありました。小雪さんと一緒に悩んだり、話し合う中で、レズビアンカップルで素敵な家庭を育んでいる方々の姿を目にする機会に恵まれ、背中を押されました。
東 二人のお母さんが子どもたちを愛し育てていて、「早くお風呂に入りなさいよ~」と子どもに声をかけている。そこで私たちも一緒にご飯をごちそうになったり。そういう経験って大きいんですよ。私はそのとき、ふと、自分たちの家庭が想像できた。想像ができないものには、なかなかなれない。だから私たちはそういう意味では幸運だったと思います。
増原 周りのゲイカップルを見渡したとき、「僕たちは子どもは持てないから」と言います。ネガティブな言い方でもなく、軽く、当たり前のように言う。それは「最初から子どもは持てない」と思わざるを得ないからですよね。でも、レズビアンカップルと話すと「子どもは持てる。あきらめなくてもいい」と積極的な意見を多く聞く。
東 私自身、高校生の時に自分は女の子が好きなんだと気が付いたとき、「私は結婚も家族も子どもも持てない」と思いこんでいました。でも、それから時が経って、今は世界的に同性婚が認められる方向へ向かっている。できないと思っていたこともできるようになってきている。同性婚は法律の問題で、出産は法律のみならず生殖医療という技術にも関わる問題ですが、「できない」と思いこんでいたことがいつか可能になるとすれば、それはいいことなのではないかと思います。
なぜ子どもを欲しいのか?
【「僕はたくさんの甥や姪に恵まれていて、昔から子どもが好きなのはわかっていたんです。兄や姉の家庭を見て、自分も子どもを育てられたらいいなと思ったことは何度もありますが、当然のように、とうの昔にそんな願いは捨てていました」とみっつんさんは言う。「家庭を持てるかもなんて、期待すらしていなかった。でも11年末にリカに初めての姪ができたんです。その経験がリカには大きかったようで、少しずつ考え始めたんです」。とはいえゲイカップルが子どもを持つのは簡単ではない。「とことん話し合い、リサーチし、結論を出すまでに2年以上かかりました。様々なワークショップにも参加して、自分が親になるとはどういうことか、ということを突き詰めました。こういった経験は、同性カップルならではだと思います。考え抜かなければ子どもを持つことができない。“できてしまった”ということがあり得ないので、自分自身にしっかり向き合ってから行動を起こすことになるんです」】――なぜ子どもを欲しいか、という問いかけは、誰にも簡単に答えられるものではないと思います。みっつんさんとリカさんも、東さんと増原さんも、そこは何年もかけて考えてらっしゃいますね。
増原 “なぜ”と問われると、それはいまだに私たちにもわからないんです。でも、それは異性愛のカップルであれ、誰であれ、おそらく同じではないでしょうか。ただ、私たちは子どもが生まれた後、どう育てていくかについてはすごく真剣に考えています。
東 子どもにとって、自分が人工授精で生まれたのかセックスで生まれたのかという受精に至る経緯よりも、両親がどのような思いでその子を産み、愛し、育てているかを伝えることのほうが大切だと思います。私たちは生まれてくる子どもに対して「心からあなたを望んで、苦労もして、あなたを待っていたんだ」と100%言える。
人工授精
精子と卵子とを人工的に結合させること。一般的には精液(精子を含む)を人工的に女性の性管(膣、子宮頸部、子宮腔など)へ注入する。普通の性交による自然受精とは異なり、第三者(医師)により人工的に輸精する。男性側に乏精子症、無精子症、精子無力症などの異常がある場合に行われる。不妊治療の生殖補助医療(ART ; assisted reproductive technology)として一般的に実施されている。夫の精液を用いる配偶者間人工授精(AIH ; artificial insemination by husband)と、夫以外の男性の精液を用いる非配偶者間人工授精(AID-by donor)がある。AIDは学会などの倫理的検討を十分には経ないまま約1万人が誕生していたが、1997年5月に日本産科婦人科学会が医療行為と認めた。
体外受精
手術等によって母体の卵巣から排卵直前の卵子を取り出し、培養基に移して精子を加え受精させる生殖補助医療。この受精卵を48時間後に膣を通して子宮に着床させるのが一般的な体外受精・胚移植(IVF-ET ; in vitro fertilization and embryo transfer)であり、卵管閉塞などに有効である。1977年イギリスで初めて行われ、翌年第1号児が出生、日本では83年に成功した。また、99年に実施され始めた胚盤胞移植(blastocyst transfer)では、受精卵を5日ほど培養して胚盤胞になってから移植する。培養に高い技術が必要であるが、妊娠率が高くなる。そのほか、体外で受精を確認することなく、卵と精子の混合物を卵管内に移植する配偶子卵管内移植、すなわちギフト法(GIFT ; gamete intrafallopian transfer)がある。また、精子の数が極度に少ない、動きが悪い等の原因により、顕微鏡を見ながら、卵子と精子を操作して授精させる顕微授精(micro-insemination)もある。顕微授精は、卵子の細胞質内に精子を直接注入する卵細胞質内精子注入法(ICSI ; intracytoplasmic sperm injection)が主に行われる。これらの体外受精は夫婦間で行うのが原則である。厚生労働省の生殖補助医療部会は、夫婦間以外の体外受精に関して、「それを受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療(非配偶者間生殖補助医療)を受けられる制度の整備」として以下の六つの条件等を03年4月に報告した。(1)精子提供者は満55歳未満の成人、卵子提供者は既に子どものいる成人に限り、満35歳未満とする。(2)精子・卵子・胚の提供にかかる金銭等の対価の授受を禁止する。
LGBT
【L】レズビアン(女性同性愛者)、【G】ゲイ(男性同性愛者)、【B】バイセクシュアル(両性愛者)、【T】トランスジェンダー(生まれた時に法律的、社会的に割り当てられた性別にとらわれない性別のあり方を持つ人。性同一性障害を含む)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティー(性的少数者)の総称の一つ。
渋谷区パートナーシップ証明書
2015年4月1日に施行された、東京都渋谷区の同性パートナーシップ条例(渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例)に基づき、同性のカップルを「結婚に相当する関係」と認定して発行する証明書。証明書は区内在住の20歳以上の同性カップルを対象とし、互いに後見人になる公正証書を作成していることなどを条件に発行。区民や事業者には、証明書を持つカップルを夫婦と同等に扱うことを求める。賃貸住宅への入居や病院での面会などで家族として扱われることが想定されるほか、夫婦として家族向け区営住宅に入居することが可能になる。証明書に法的な効力はなく、渋谷区は「憲法が定める婚姻とは別の制度」と説明している。
みっつん
舞台俳優、ヨーガインストラクター。
スウェーデン出身のパートナー、リカさんとは08年に東京で出会い、11年にスウェーデンの法律の下、結婚。同年、リカさんの転勤を機に東京からロンドンへ移住し、現在に至る。ロンドンでは、演者として、また演出者として舞台で活躍するほか、ヨガインストラクターとしても活動。また、移民問題やLGBTに関する問題にも積極的に取り組んでいる。現在子どもを持つためサロガシー(代理懐胎)にて準備をしており、サロガシーに取り組むことになった経緯や、近況などをブログ「ロンドン在住ゲイカップルが、代理母出産で子どもを授かる話 リカとみっつんのサロガシーの旅 in アメリカ」で発信している(URL:http://futaripapa.com)。