増原 同性カップルが子どもを持つまでに考え抜くことは、「なぜ自分が産みたいのか」というよりも「どのように幸せな家庭を築いていくか」と言えるかもしれません。
妊娠、出産の「自然」「不自然」って?
――妊活について公にされていますが、批判を受けることはありますか。増原 あります。「不自然な妊娠出産だ」という意見がやはり多いです。ただ、生殖補助医療がこれだけ発達している現在、妊娠出産について何が自然で何が不自然なのかという議論は、線引きがしにくい。男女のセックスでの自然妊娠だけを認める、という立場なのであれば、体外受精(IVF)も顕微授精も不自然ということになってしまう。
東 現在、体外受精児は、出生児約24人に1人ほどの割合で生まれているという統計があります(日本産科婦人科学会「倫理委員会・登録・調査小委員会報告 体外受精・胚移植等の臨床実施成績及び登録施設名」15年9月)。不妊治療をしている女性はとても多い。日本では60年以上前からAID(非配偶者間人工授精)で赤ちゃんを授かる方もいらっしゃいます。子どもの作り方、でき方に関して、今は様々なお手伝いの段階があります。
増原 1980年代に、日本でも体外受精が技術として現れたとき、大騒ぎになりました。でも、今はもう生殖補助医療として支持され、騒ぐ人はいません。同性カップルが子どもを持とうという行為はまだまだ認知されていませんし、技術面で言うと代理出産もまだ一般的ではありませんが、やはり「慣れ」の問題はあって、そのうち当たり前になっていくのかもしれません。
――批判する側の「不自然だ」という意見の根底には、生殖補助医療への懐疑のみならず、異性の両親が自然であり、同性の両親は不自然だという固定観念があるのでしょうか。
東 そうかもしれません。というのも「子どもがいじめられるだろうからやめておきなさい、子どもがかわいそう」「同性愛者の苦労は、お二人で留めておいたら?」という批判もされるからです。
増原 そういった批判は、「いじめられるかもしれない」という仮定に基づいているだけなので、真に受けないようにしています。
東 そういった固定観念が差別やいじめを助長していると思います。
増原 2015年のNHKの調査では、2600人のLGBTのなかで100人近くが「子どもがいる」と答えたんですよ(NHK「LGBT当事者アンケート調査」15年)。ほとんどがレズビアンの子どもではないかとは思いますが、それにしても100人のLGBTが人の親なんです。それを「かわいそう」「いじめられる」と思うことのほうが、おかしいと思います。話は少しずれるけれど、「自然」とされる異性カップルにも、虐待問題が起きたりしているわけで……。お父さんとお母さんがいればそれだけで幸せなのか、と考えてしまいます。
東 みっつんさんがおっしゃっていたことなんですが、「新しい命を授かるためにどれだけ医療的介入があったとしても、最終的には男性も女性も、何もできない」。私はその言葉を聞いたときに本当に腑に落ちたんです。たとえ採卵できて受精卵ができて胚移植しても、それが胎内で着床して育っていくかどうかは、誰にもどうにもできないことなんですよね。医療的介入で受精にいたるまでのお手伝いはできても、着床するかどうかは祈るほかない。
増原 さらに言えば、着床しても流産の可能性もある。
東 だから、受精卵のでき方がセックスであろうと、なんであろうと、そこから先はどんな形であれ自然だと私は思うんです。着床して育ち、出産に至るというのは奇跡的なこと。生殖補助医療がこれだけ発達した今でも、100%妊娠出産に至る方法はないわけで、生命の誕生のコントロールは結局は誰にもできない。そう思うと、妊娠出産を「自然か不自然か」とジャッジすることはできないと思います。
生まれてくる子のアイデンティティー
――ところで、AIDによって生まれた方にお話を伺ったことがあるそうですね。東 はい。当事者の方が体験を語る会でお話を聞く機会がありました。AIDによって生まれ、そのことを成長されてから知った方が開いた勉強会でした。その方はAIDには反対の立場を取られていました。ご本人の経験からの実感のある意見でした。
増原 私たちは質疑応答で手を挙げて、「レズビアンカップルなのですが精子提供を受けて子どもを授かりたい」と発言したんです。するとその方は「あなたがたの場合は少し別のケースなのかもしれない、わからない」とおっしゃった。
東 どう思われるか少し心配でしたが、思い切って意見を言ってみたんです。すると、全くの否定ではなく、理解を示してくださる反応があった。おそらく、日本国内で過去にAIDによって生まれた方々は、夫側に不妊の原因があるご夫婦の子ども、というケースが多かったのだと思います。その場合、いわゆる「自然」といわれる家庭に育っていますから、子どもは自分の両親との血のつながりを疑うこともなく過ごしていることが多い。しかし、DNA検査などがきっかけとなり、あるとき突然自分と父親との間に血のつながりがないことを知り、自分自身のアイデンティティーが崩壊するようなショックを受けるそうなのです。これは、出自を秘密にされてきたことへの衝撃ではないかと思います。
増原 私たちの場合、両親の性別が同じであることは公然と知られる事実なので、前提として、子どもに出生に至る道筋を秘密にしておくことはできないのです。そういう意味では、従来の一般家庭におけるAIDによる出産とは違うのだと思います。やはり、大事なのは生まれてくる子どもへの説明なのではないか、と思います。
ゲイカップル、代理出産に挑む(2)へ続く。
人工授精
精子と卵子とを人工的に結合させること。一般的には精液(精子を含む)を人工的に女性の性管(膣、子宮頸部、子宮腔など)へ注入する。普通の性交による自然受精とは異なり、第三者(医師)により人工的に輸精する。男性側に乏精子症、無精子症、精子無力症などの異常がある場合に行われる。不妊治療の生殖補助医療(ART ; assisted reproductive technology)として一般的に実施されている。夫の精液を用いる配偶者間人工授精(AIH ; artificial insemination by husband)と、夫以外の男性の精液を用いる非配偶者間人工授精(AID-by donor)がある。AIDは学会などの倫理的検討を十分には経ないまま約1万人が誕生していたが、1997年5月に日本産科婦人科学会が医療行為と認めた。
体外受精
手術等によって母体の卵巣から排卵直前の卵子を取り出し、培養基に移して精子を加え受精させる生殖補助医療。この受精卵を48時間後に膣を通して子宮に着床させるのが一般的な体外受精・胚移植(IVF-ET ; in vitro fertilization and embryo transfer)であり、卵管閉塞などに有効である。1977年イギリスで初めて行われ、翌年第1号児が出生、日本では83年に成功した。また、99年に実施され始めた胚盤胞移植(blastocyst transfer)では、受精卵を5日ほど培養して胚盤胞になってから移植する。培養に高い技術が必要であるが、妊娠率が高くなる。そのほか、体外で受精を確認することなく、卵と精子の混合物を卵管内に移植する配偶子卵管内移植、すなわちギフト法(GIFT ; gamete intrafallopian transfer)がある。また、精子の数が極度に少ない、動きが悪い等の原因により、顕微鏡を見ながら、卵子と精子を操作して授精させる顕微授精(micro-insemination)もある。顕微授精は、卵子の細胞質内に精子を直接注入する卵細胞質内精子注入法(ICSI ; intracytoplasmic sperm injection)が主に行われる。これらの体外受精は夫婦間で行うのが原則である。厚生労働省の生殖補助医療部会は、夫婦間以外の体外受精に関して、「それを受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療(非配偶者間生殖補助医療)を受けられる制度の整備」として以下の六つの条件等を03年4月に報告した。(1)精子提供者は満55歳未満の成人、卵子提供者は既に子どものいる成人に限り、満35歳未満とする。(2)精子・卵子・胚の提供にかかる金銭等の対価の授受を禁止する。
LGBT
【L】レズビアン(女性同性愛者)、【G】ゲイ(男性同性愛者)、【B】バイセクシュアル(両性愛者)、【T】トランスジェンダー(生まれた時に法律的、社会的に割り当てられた性別にとらわれない性別のあり方を持つ人。性同一性障害を含む)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティー(性的少数者)の総称の一つ。
渋谷区パートナーシップ証明書
2015年4月1日に施行された、東京都渋谷区の同性パートナーシップ条例(渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例)に基づき、同性のカップルを「結婚に相当する関係」と認定して発行する証明書。証明書は区内在住の20歳以上の同性カップルを対象とし、互いに後見人になる公正証書を作成していることなどを条件に発行。区民や事業者には、証明書を持つカップルを夫婦と同等に扱うことを求める。賃貸住宅への入居や病院での面会などで家族として扱われることが想定されるほか、夫婦として家族向け区営住宅に入居することが可能になる。証明書に法的な効力はなく、渋谷区は「憲法が定める婚姻とは別の制度」と説明している。
みっつん
舞台俳優、ヨーガインストラクター。
スウェーデン出身のパートナー、リカさんとは08年に東京で出会い、11年にスウェーデンの法律の下、結婚。同年、リカさんの転勤を機に東京からロンドンへ移住し、現在に至る。ロンドンでは、演者として、また演出者として舞台で活躍するほか、ヨガインストラクターとしても活動。また、移民問題やLGBTに関する問題にも積極的に取り組んでいる。現在子どもを持つためサロガシー(代理懐胎)にて準備をしており、サロガシーに取り組むことになった経緯や、近況などをブログ「ロンドン在住ゲイカップルが、代理母出産で子どもを授かる話 リカとみっつんのサロガシーの旅 in アメリカ」で発信している(URL:http://futaripapa.com)。