スポーツ義肢への支援を
種目ごとにそれに合わせたスポーツ義肢があるわけですが、専用のパーツが豊富にそろっているわけではありません。実は、数少ない既製のパーツを加工することで、それぞれの種目に合わせた義肢を作るようにしています。なぜかというと、生活用の義肢は障害者総合支援法(2013年、障害者自立支援法を改め、施行)によって患者さんの負担は実質1割ほどで済みますが、スポーツ用義肢には補助が出ず、全額自己負担になります。しかも原則現金払いとなると、患者さんの負担を軽くするためには、こうした方法が現実的なのです。
どれくらいの費用かといいますと、陸上競技用の義足の場合、板バネ1枚が安いものでも25万円、高いものでは70万円もします。ソケットの製作費や調整費などを含めると、だいたい80万円ぐらいになってしまい、簡単に工面できる金額とはいえません。
確かに、スポーツ用の義肢は日常生活に欠かせないものではありません。しかし、せめて義務教育を受けている子どもたちくらいには、公費での支援を求めたいところです。障害をもった子どもがスポーツに取り組みたいと希望するなら、その意思を支持するべきですし、たしなむなら子どものときから始めたほうがいいに決まっています。グラウンドの隅で体育の授業を見学するしかなかった子どもが、みんなといっしょに走ることができるような環境が整ったら、素晴らしいと思いませんか。中には才能をもった子どももいるはずです。障害者のスポーツ大会も増えている中、未来の選手育成の意味でも、早急に支援法の見直しを検討してもらいたいものです。
スポーツをはじめたい人たちへ
スポーツに取り組む前に大事なのは、まず傷をしっかり治すこと。そして、仕事と私生活を安定させて、生活基盤を整えること。チャレンジするのは、それからです。まれにそれらを踏まえないでスポーツをはじめる方もいますが、長続きしません。そして、義肢を着ければすぐにスポーツができるようになるわけではありません。2年ほどかけてかかわっていく、というくらいのスパンで考えてください。次は情報集めです。全ての都道府県に設けられているわけではありませんが、公的な障害者スポーツセンターが各地にあります。そこへ連絡を取れば、興味のある種目に合ったクラブやチームなどの情報を得られるはずです。ネックとなっている高額のスポーツ義肢なども、義肢製作所などを通じて1カ月で7000円ほどからレンタルできるような制度がはじまっています。
情報を集め、興味がわいたら、ぜひアクションを起こしてほしいと思います。なんでしたら、筆者たちのセンターに相談していただいてもかまいません。
2020年・東京パラリンピックへ向けて
2020年の東京パラリンピックでも、選手たちを支えるのは、やはりスポーツ義肢です。現状でも存分な記録を打ち立てていますが、彼らも筆者も満足してはいません。筆者の目標は、そのときまでに、純国産の、そして世界水準を超えた陸上競技用の義足を作り上げることです。今のところ、陸上競技用の義足は一見同じような形をしていると思われがちですが、並べてみると、どれも違った形をしています。それは、まだ完成形にいたっていないことの表れで、改善の余地が残っていることを意味しているのです。
現在、筆者は日本のスポーツ用品メーカーと義肢メーカーとともに共同開発のプロジェクトを進め、この秋には新しい義足の初期モデルを完成させる予定です。さらに、2018年までに上級者用のハイパーなモデルを完成させることを目指しています。東京パラリンピックに出場する日本の代表選手たちの記録更新を手助けするとともに、この新しい義足を世界に向けて発信したいと思っています。
同時に、障害をもっていてもスポーツにチャレンジしたいと考える人を増やし、それを支援し、受け入れるための態勢の充実に貢献していくことも筆者の務めだと思っています。