それから、補助犬ユーザーがどんな訓練と認定を受け、どのように犬を管理しているかという情報が、これまで不足していたように思います。自動車の運転免許を取るときに教習所へ行くように、補助犬ユーザーも補助犬とペアで社会参加するための合同訓練を受け、最終的に国の指定法人で試験を受けて合格したペアだけが認定されます。ユーザーは社会参加の場面で、補助犬に対する行動管理・衛生管理の全責任を負います。食事の世話もしますし、排泄についてもその補助犬のタイミングを計って、指示した場所・時間でするように管理して片付けも自分で行い、補助犬の「飼い主」として責任を持てる人にのみ認定証が発行されています。こうしたことが理解されれば、補助犬と補助犬法の認知度はもっと上がっていくのではないでしょうか。
補助犬ユーザーと補助犬を取り巻く実情をもっと理解していただくために、管轄の厚生労働省や当センターでも啓発活動に取り組み、情報発信に努めています。
2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて
日本での普及活動と同時に、今、もう一つ取り組まなければならない緊急課題があります。それは、海外からの補助犬ユーザーの受け入れです。20年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、補助犬同伴で来日する外国人の増加が予想されます。しかしながら、補助犬法は国内法であるため、同伴受け入れ義務は国内で認定された補助犬ユーザーと補助犬に限られており、外国人の補助犬ユーザーと補助犬には国内でのアクセス権(さまざまな施設に同伴して利用する権利)は認められていません。現状では、民間レベルの取り組みとして国内の指定法人が「一時通行証」を発行していますが、それらの基準の統一など受け入れ体制づくりは、今後本格的に検討されていくことになります。まずは、海外の方にも日本の補助犬法の存在を知ってもらうために、この5月に海外向けの補助犬ポータルサイトが公開されました。そして今年度中には、海外の補助犬ユーザーの受け入れに関する検討会の開催が予定されています。
国内の補助犬の理解促進にとっても、東京オリンピック・パラリンピックの開催は大きなチャンスです。世界の人々から「さすが日本!」と言われる、真の「おもてなし」をするためには、社会全体が障害の有無にかかわらず一丸となって協働し、障害者や補助犬たちが、安心して活躍できる新しい社会をつくり上げていく必要があります。
真のユニバーサルデザイン社会を目指して
14年1月に日本は障害者権利条約を批准し、16年4月に障害者差別解消法が施行されました。これに基づいて、障害者を取り巻く環境は大きく変わり始めました。障害者理解の新しい考え方の普及が加速し、従来のように障害者支援の専門家の意見が中心になるのではなく、何よりも耳を傾けるべきは、当事者である障害者の言葉であるという「当事者研究」が進んでいます。さらに世界的なトレンドとして、「医学モデル(個人モデル)から社会モデルへ」という流れがあります。「障害とは何か」という概念に関して、その人の身体に障害があるという「個人の問題」として捉える「医学モデル(個人モデル)」がこれまでは主流でした。しかし、最近では社会こそが「障害(障壁)」を作っており、障害者が抱える問題は社会の問題という「社会モデル」の考え方が主流になってきています。
補助犬については、20年までに「同伴拒否ゼロ」を目標としていますが、それがゴールではなくそこからがスタートであり、どんなレガシーを残せるか、これこそがいちばん大切です。そのためには、人々の理解と一人ひとりの発信が重要になってきます。もし、飲食店など受け入れ側の理解不足で補助犬同伴を拒否されている場面に遭遇した場合には、「補助犬法で受け入れが義務づけられています」と、ぜひ援護をお願いします。特に飲食店などで「他のお客様のご迷惑になりますので」と断られるケースが多いので、「他のお客様」から「大丈夫だ」と伝えることが、何よりも心強いサポートになります。
また、補助犬を同伴していても、人的なサポートが必要な場合もあります。盲導犬が一緒でも、信号の色は犬には判断できません。視覚障害者が赤信号で止まり、青信号で歩き出すのは、盲導犬が知らせる「段差」などの情報を受け取り、障害者自身が周囲の気配や音を察知して判断しています。信号の前で盲導犬ユーザーや白杖を持っている視覚障害者を見かけたら、「まだ赤です」「青になりましたよ」とぜひ声をかけてください。
介助犬と聴導犬のユーザーも同様です。表示を付けている補助犬は「仕事中」なので、犬に勝手に触ったりじっと見つめたりなどの気を引く行為をして、犬の仕事のじゃまをしないようにお願いしていますが、ユーザーが困っている様子が見られたら、まずは「何かお手伝いできることはありますか?」のひと言をお願いします。そのときに「大丈夫です」と言われても、「せっかく声をかけたのに!」ではなく、「困っていなくてよかった」と思えるようになりたいものです。そんなコミュニケーションが当たり前にとれる社会は、すべての人が安心できる社会だと思います。
補助犬法成立から15年、東京オリンピック・パラリンピック開催を3年後に控えた今、障害の有無、年齢や性別、国籍や民族などにかかわりなく、誰もが等しく安全・安心・快適・便利に暮らせる、真のユニバーサルデザイン社会を推進する千載一遇のチャンスでもあります。このチャンスを生かして、障害者や補助犬が当たり前のようにいる社会の実現を目指したいと考えています。