組織委員会が考えるボランティア戦略とは?
組織委は16年12月に、前掲の「東京2020大会に向けたボランティア戦略」を発表した。その応募資格について組織委のHPに以下の記述がある。
(1)2020年4月1日時点で満18歳以上の方
(2)ボランティア研修に参加可能な方
(3)日本国籍を有する方又は日本に滞在する資格を有する方
(4)10日以上活動できる方
(5)東京2020大会の成功に向けて、情熱を持って最後まで役割を全うできる方
(6)お互いを思いやる心を持ちチームとして活動したい方
この応募資格の中にはいくつもの欺瞞が隠されている。(2)の研修は職種によって異なるが、オリンピックの前年くらいから始まり、研修自体は無料でも、そこに通う交通費は自己負担だ。(4)の10日以上というのも、勤労者にとってはかなりのハードルだ。そうなると主力は学生か勤労者以外のすでに退職した高齢者となる。しかし「東京2020大会に向けたボランティア戦略」には、小中高生の参加を促す施策はあるが、高齢者のものはない。酷暑の大会へのボランティア参加は高齢者には危険が大きいことがわかっているからだ。
さらに(5)の「情熱を持って最後まで役割を全うできる方」という書き方も、ことさら責任感を強調していていやらしい。(6)「お互いを思いやる心を持ち……」と併せて、「言われたことには協力し、最後まで責任を持って全うせよ」という上から目線を感じさせる。
その下心は、上述の「ボランティア戦略」に付随した文書「東京2020大会に向けたボランティア戦略について」における「東京2020大会においてボランティアが果たす役割」の中にある「・日本人の強みである『おもてなしの心』や『責任感』を活かして行動・自らの役割を心から楽しんで活動に参加し、大会全体の雰囲気の盛り上げ」という記述にも垣間見える。対価を一切支払わないくせにことさら責任感を強調し同調圧力を加えるとは、どこまで厚かましいのか。
さらに驚くべき目論見がある。同文書の「戦略の主な内容」では、「関係自治体等との連携」として、「全国自治体・地域(団体、交通事業者等)との連携」「企業等との連携」などを挙げているが、その中に「ラグビーワールドカップ2019との連携」という項目が潜り込まされているのだ。
そこには「都市ボランティアの募集を平成 29年度に一部前倒して実施し、ラグビーワールドカップ2019での経験を大会に繋げる」とあるが、言うまでもなくラグビーワールドカップはオリンピックと何の関係もないスポーツ興行であり、会場整理や案内係は、ラグビーワールドカップの実行主体が独自雇用すべきものだ。それを無理やりオリンピックと結びつけ、本来アルバイトを雇用すべきところを無償ボランティアで代用しようと言うのだから恐れ入る。ちなみにこのラグビーワールドカップも電通の一社独占事業であり、オリンピックと併せての同社への露骨な利益誘導であると思われる。
高度な能力、過酷な作業――正当な対価を全員に!
実は、2016年7月に、組織委が大会ボランティアに求める要件の素案として、以下のような参加要件を示して、物議を醸していた。
「コミュニケーション能力がある」
「外国語が話せる」
「1日8時間、10日間以上できる」
「採用面接や3段階の研修を受けられる」
「競技の知識があるか、観戦経験がある」
一見して高度な要求だったため、
「こんなハイスペックな人材をタダで使おうというのか?」
「通訳能力までタダで提供しろというのか?」
などと組織委に批判が殺到した。そのときは「まだ素案の段階」として誤魔化したのだが、結局ほとんど何も変更せず、語学部分を曖昧にして、12月に成案として出してきたのだ。
しかしその騒ぎの際、京都大学の西山教行教授は東京新聞への投稿(2016年7月21日付朝刊)で「通訳はボランティアが妥当との見解は外国語学習への無理解を示すばかりか、通訳や翻訳業の否定にも結びつきかねない」「街角での道案内ならさておき、五輪の管理運営業務に関わる翻訳や通訳をボランティアでまかなうことは、組織委員会が高度な外国語能力をまったく重視していないことの表れである」と痛烈に批判した。
西山教授が批判したとおり、組織委は語学能力を重視していないどころではない。自らは高給を貰いながら、あらゆる人々の能力や善意を利用し、タダで使おうとしているのだ。
ちなみに16年のリオ五輪では、無償と有償ボランティアの両方があったが、過酷な待遇に耐えかねて多くの無償ボランティアが職場を放棄し、現場が混乱したことが報道された。
東京五輪で9万人のボランティアに対し、1日1万円の日当を20日間(オリンピック・パラリンピック各10日間)支払ったとしても、その費用はわずか180億円である。4000億円近い協賛金からすれば微々たる金額であり、払えない額ではない。というよりも、酷暑の中での過酷な作業に対する正当な対価として、絶対に払うべき金額なのだ。
多額の税金を投入する東京オリンピックがすでに準公益事業であることは誰の目にも明らかだ。ということは、その予算内容は全て国民に公開されるべきであり、現在のように組織委がスポンサーから一体いくら集めているのか不透明な状況は許されない。組織委は直ちにその収入の詳細を明らかにし、同時にボランティアは全員有償とするべきである。