日本だけでなく世界から注目されていた韓国映画が低迷している。カンヌ国際映画祭や米アカデミー賞での評価を追い風に社会派から娯楽大作まで幅広い作品が量産されていた勢いは影を潜め、Netflixなど動画配信サービスの台頭もあり映画館から観客の足が遠のいている。今年(2026年)1月、韓国の映画製作会社「ミョンフィルム」のイ・ウン代表が来日、東京・神保町の書店「チェッコリ」で「韓国映画産業の現在地とこれから」と題し講演した。イ代表は、現在の韓国映画の不振の背景にある問題を指摘するとともに解決策も提示した。イ代表の発言を基に韓国映画の現状について考えてみた。
「入場料が高い」「見たい映画がない」低迷にあえぐ韓国映画の現状
イ代表が率いる「ミョンフィルム」は1995年、独立映画(いわゆるインディーズ映画のこと)出身のイ代表と、商業映画のマーケティングを担当していた妻シム・ジェミョン氏が設立した。同社はこれまで52本の映画を製作。パク・チャヌク監督作、若きソン・ガンホ、イ・ビョンホンが出演した『JSA』(2001年)や、ファン・ジョンミンが主演した『ワイキキ・ブラザーズ』(同)など数多くのヒット作を生み出し日本でも人気を集めた。同社の成長は、韓国映画発展の歴史と重なる。
同社の作品以外でも、多くの韓国映画が、カンヌ国際映画祭など世界各国の映画祭で注目された。そして、2020年、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』が、第92回アカデミー賞で作品賞や監督賞など4部門に輝き、韓国映画の世界的な評価を高めた。
しかし、2020年からのコロナ禍により映画館が休業を強いられる反面、Netflixなどの動画配信サービスが拡大し、映画館離れが一気に進んだ。2024年には『破墓/パミョ』や『ソウルの春』など国産の「1000万人映画」が誕生したが、2025年はヒット作が少なく、観客動員数が大きく落ち込んだ。
韓国映画振興委員会によると、2025年の観客動員数は1億600万人と、コロナ禍だった2020年、2021年を除いた2005年以降では最低となった。コロナ禍前の2019年と比較すると回復率は約47%にとどまり、日本(約97%)と比較しても回復の遅れが目立つ。

韓国映画の低迷の背景には複数の要因が絡んでいるが、最も大きいのはコロナ禍による映画の視聴形態の変化が挙げられる。動画配信サービスが定着する一方、コロナ禍による観客数減少と減益を補うため、映画館の入場料は値上げが続いた。コロナ前は約8000~9000ウォン台だった入場料は現在1万5000ウォン(約1500円)まで値上げされ、「映画館で見る必然性」が薄れている。
韓国の映画関係者で構成する市民団体「映画人連帯・参与連帯」が2025年8月から12月にかけて観客638人を対象に実施した調査によると、コロナ禍以後、映画館での観覧回数が減った理由について聞いたところ、「チケット価格が負担」(67.7%)が最も多かった。「OTT、VOD、IPTV(*1)で見るほうが気楽」(48.1%)、「見たい映画ではない特定の作品だけが上映されているから」(41.7%)と続いた。
見る側にとって、動画配信サービスは確かに便利なものだろう。また、動画配信サービスの中でも特にNetflixは巨額の製作費を提示し、さまざまな映画の企画を成立させてきた。しかしその代償として、興行成績や批評による“時間をかけた評価”や多様性は失われ、視聴データが作品の寿命を決めるようになりつつある。動画配信サービスは、短期的に見れば映画産業を延命させているかもしれないが、個々の作品が観客に見てもらえる期間を短くしている。これから問われるのは、映画にかかる資金の額面や出所よりも、映画文化をどのような時間軸で育てるのかという思想ではないだろうか。

(*1)
(*1)OTTはOver the Topの略で、インターネットを介したサービス全般のこと。VODはVideo on Demandの略で、消費者の需要に応じて、買い切りやレンタル、サブスクリプションなどで動画を視聴できる手法のこと。IPTVはInternet Protocol Televisionの略で、インターネットTVのこと。例えばNetflixのような定額制の動画配信サービスは、PCやスマホのほかにIPTVで視聴することもできる、SVOD(S=subscriptionの略)タイプのOTTと言える。

(*2)
(*2)Webtoon。スマートフォンでの閲覧に特化した、韓国発祥の縦スクロール、フルカラーのデジタルコミックのこと。
