人気があるから売れるわけではない?
鴻池 ニシダさんはいま小説を発表されてますけど、お笑い芸人になる前に小説家になろうとしたことはあったんですか?
ニシダ なかったです。そもそも、芸人になろうと思ったこともなかったんです。
鴻池 そうなんだ! 子どもの頃から、本はたくさん読んでいらっしゃったんですね?
ニシダ 本は好きでした。『ハリー・ポッター』とか、自分が小学生の頃に流行っていて、そういう児童書を入り口に中高大とずっと本は読んできましたね。でも、書く側になるとは思ったことがなかった。ひたすら「楽しい!」って思ってましたから。
鴻池 読むことが?
ニシダ そう。自分はどちらかというと、表現する側ではなく、享受する側の人生を歩むと思っていました。お笑い芸人になったのも、大学のお笑いサークルでいまの相方とコンビ組んで、たまたま最初に出た「M-1」でうまくいったみたいなところがあります。小説を発表するのも、いろんな番組で、「本が好きです」と言っていたら、編集者の方から「小説、書いてみませんか」と言ってくれたからですね。どちらもすごい楽しいので、いまはめちゃくちゃ頑張りたいと思ってますけど、最初の動機としては、芸人も小説家も「絶対、なってやる」ではなかったんです。
鴻池 なるほど。でも、いま続々と小説を書かれていますよね。ニシダさんの小説家としての目標とかはあるんですか?
ニシダ うーん……。何か賞が欲しいとか、他人に評価されたいよりは自分で納得できるよりよいものを書きたいですね。
鴻池 めちゃくちゃ健全な目標ですね。
ニシダ 評価もついてきたら嬉しいですけど、まずは自分の納得できるものを書きたいです。鴻池さんは、目標とかはあるんですか?
鴻池 僕はデビューした頃は、邪(よこしま)な気持ちが強くて、デビューの次は何某賞だみたいな感じでしたね。編集者が純文学作家のステップアップの道筋を示唆してくるんですよ。いままで、その気負いで苦しんだ側面もありますね。
ニシダ ああ、そうでしたか。
鴻池 あと文芸誌だと、発表した翌月に月評が出るんですよ。
ニシダ はいはい、出ますね。
鴻池 新人の頃は、あの評価にドキドキしましたね。でも、ニシダさんはあまり気にならない。
ニシダ もちろん、まったく気にならないわけじゃないですよ。芸人でいうとピースの又吉(直樹)さんという純文学の世界ではトップランナーがいて、ほかにも爆笑問題の太田(光)さんら先輩方がお笑いをやりながら、小説を書き続けているので、その人たちは目標でもあるんです。でも、作品ごとの評価とかは気にならないかな。

鴻池 お笑いの評価はいかがですか?
ニシダ エゴサはしますけど、その評価で一喜一憂はしないです。自分はネタを書いていないというのもあります。あと、お笑いの評価の基準は少し特殊なんですよ。お笑いではお客さん、テレビの制作側、舞台袖にいる芸人、この3つのうち、2つの評価を取ったら売れると言われるんです。
鴻池 へぇー、そうなんだ!
ニシダ だから、お客さんの人気がなくても、舞台袖の芸人とテレビ局のスタッフが評価すれば売れることもあるんです。
鴻池 でも、やっぱりお客さんに人気がないと売れはしないんじゃないですか。
ニシダ テレビとかで露出が続いていけば、人気はあとからついてくると言われるんです。自分らのちょっと上の先輩たちがよく言っていました。人気があるから、売れるとも言えないんですよね。同業者の評価と世間の人気は必ずしも一致しないですし。
鴻池 あー面白いですね。
ニシダ 芸人の世界で、一発屋みたいな現象が起きるのも、人気だけが先行して、ほかの2つの要件が揃わなかった現象なんだと思います。人気というのは上下に激しく動くもので評価の基準としては安定しない。爆発的な人気は、いつか終わりますからね。ただ、いまはYouTubeとかでこちらから露出を増やすことができたりするので、また評価基準も昔とは違うかもしれません。
鴻池 やっぱりYouTubeは大事ですか?
ニシダ 大事ですね。YouTubeはテレビ制作者への取説になっているんです。売れてなくて無名でも、こういう芸ができるコンビだとか、こんな企画だと面白い芸ができるんだとか、テレビ制作者にアピールすることができる。
鴻池 ニシダさん、なんか裏側を淡々と分析されますよね。
ニシダ そうですか(笑)。いや、お笑い界だと業界の裏話を語るみたいなのが少し流行りではありますけどね。
鴻池 じゃあ、流行りにのって話されているということか(笑)。
ニシダ いやいや(笑)。ただ、話しやすいというのはあります。業界の裏側を語るトークベースのテレビ企画とか、最近多いですからね。お笑い界だけでなく芸能界全体がそうですよ。