ホッとして表情を緩める仲間たちを見て、
「運は巡るものだよ」
と、アンジェロが笑う。その場の空気が和み、皆が再びプレイに集中し始める。次の回では私もプレイヤーに志願すると、アンジェロが「私に勝ちたいんだね」とウインクした。
何ゲームプレイしたか覚えていないほど、アンジェロとその仲間たちはこの日、ドミノにとことん熱中した。はしゃぐ先輩たちに戦略を教わる少年たちも、その様子を眺める人たちも楽しげで、微笑ましかった。マラスが支配するスラムとは思えない平和な時が、そこには流れていた。
2020年5月現在、アンジェロたちが関わる5つの子ども食堂は、政府の新型コロナ危機への対策の一環で、一時休止を余儀なくされている。それでも彼らは、車やバイクを駆使して、貧困家庭に食料品を届けてまわる。支援対象は、ふだん子ども食堂を利用している子どもたちの家と、夫や父親が元ギャングで服役中の家庭だ。アンジェロは言う。
「私と妻は、バイクで一軒一軒まわっています。最初は、子ども食堂に物資を集めて取りに来てもらうことができたのですが、まもなくそれもできなくなったので。とにかく一番困っている人たちのために、できることをするまでです」
食堂訪問の際、エリザベスもこう話していた。
「瀕死の祖国の未来を救うためには、私たちが闘うしかないんです」
神に導かれた人々は、経歴や立場などの違いを超えて、この国の未来のために連帯し闘っている。アンジェロの周りには、その闘いを続ける使命を共有する仲間が集っている。ところが、そのなかにはマラスが幅を利かせる社会で、今なお人生に大きな困難を抱える者もいた。