子供の成績を上げるために、親はどれだけお金を出すべきなのか…。「積極財政」と「緊縮財政」を巡る議論もこれと同じと考えることができる。
親を政府、子供を国民と考えよう。親である政府は財政支出によって、社会保障をはじめとした様々な行政サービスを提供、子供である国民の生活を手助けしている。「積極財政」は、政府が財政支出を活発化させ、国民生活をより広範囲に支えることであり、中でも重要となるのが景気対策だ。景気が悪くなると、政府は公共事業の増加や経営が悪化した企業への支援、失業者の救済などの経済対策を実施する。減税によって企業や国民の負担を軽減、経済活動を活発化させることも、経済対策の一環だ。親である政府が財政支出を増やすことで、「経済の成績」である景気のアップを図ることが、積極財政の大きな目的なのだ。
これに対して、「お金をかけるだけでは、成績は上がらない」という考え方に立つのが緊縮財政だ。積極財政の中心は公共事業だが、景気浮揚効果には疑問がある上に、不要な道路や施設を建てるなどの無駄を生む場合も多い。また、積極財政が展開されると、企業や個人が政府に頼り切りになり、自らの努力を怠ってしまう恐れもある。そして、積極財政を展開すれば、支出増によって国の財政を悪化させることにもなる。
景気を回復させるためには、経済が抱えている根本的な問題を解決することが必要であり、財政支出で支えても長続きしない。子供の受験勉強に、親が安易にお金をかけるのではなく、その力を信じて努力を見守るべきだというのが、緊縮財政の考え方なのである。
積極財政は「大きな政府」、緊縮財政は「小さな政府」ともつながるもので、一長一短がある。しかし、2008年のリーマン・ショックによる経済危機が発生すると、世界の多くの国で積極財政が展開された。極端に成績が落ちた子供を、親が莫大なお金をかけて、立ち直らせようとしたのだ。
しかし、景気は思うように回復しないまま出費は増える一方、財政が大幅に悪化する国が続出した。こうしたことから、積極財政から転換、ヨーロッパを中心に緊縮財政にかじを切る国も出始めている。緊縮財政を断行すれば、景気回復に水を差す危険性もあるが、積極財政だけでは、不況を乗り切れないという厳しい判断が背景にあったのだ。
一方、日本はどうか…。バブル崩壊以後、積極財政を続けてきたが、赤字が増えるだけで景気回復の効果は乏しかった。家庭教師の数を増やすだけでは、成績がアップしないのは明らかだ。積極財政を安易に続けるのではなく、抜本的な経済の成績アップの方法を見つけることが、今の日本に求められているのである。