馬の走る姿は美しい、夕日も
日が落ちて寒くなると、あったかいものが食べたくなる。せっかくだからインドカレーかなと思ったが、うどんにした。競馬場、しかも寒い屋外で食べるうどんはかなりの好物だ。年々競馬場はクリーンになってきているが、外でうどんが食べられるなら、いくつになっても、競馬場には遊びに行きたい。よぼよぼの爺さんになっても、うまい、と思いながら食べる姿は想像できる。しかも門別競馬場のうどんは、手打ちだった。うねった麺が、かみごたえがあって食欲をそそる。汁までしっかり飲み干して、後半戦に挑んだ。
もうすっかり日が暮れて、レースも終盤。パドックで馬を眺めていると、少し雪のようなものが降った。いや、雨だったか。だいぶ冷たい。ストーブがあったのでその近くに行き、そこから馬の様子を眺めた。すると、ひとり、明らかに雰囲気の違う男が、馬を眺めているのに気がついた。皆ダウンやジャンパーを着込んでいるのに、その人は黒のロングコートに、ハイネックの黒のセーター。下はスラックス。白い紙袋をぶら下げていて、やけに雰囲気がある。そしてちょっとあやしい。小説家か? と思ったが、もう少し街の男、の感じもある。とても興味を引かれた。まだこういう人が競馬場に来ているのか。嬉しくなった。
年内最後の開催日とあって、最終レースまで人はけっこう残っていた。パドックで明らかに調子の良さそうな馬から買った。結果は大きく外れた。外では寒いからか、表彰式は建物の中で行われた。狭いスペースにぎちぎちに人が集まっていた。真ん中に調教師、右側にジョッキー、左側に、あれ? さっきのあやしい男! 二度見してしまった。あの雰囲気のある男は、馬主だったのだ。マイクで紹介されて分かった。少し恥ずかしそうに、下を向いて表彰されていた。俄然興味が湧いた。この人と話がしたい。さっきパドックでウロウロしていたくらいだから、あまり自分のことを偉いやつ、と思ってなさそうだ。案の定、ささーっとその場から離れて、勝った馬のゼッケンを小脇に抱えて、建物から出ていった。今だ。自分も出口の方へ向かい、その男のあとを追った。ずんずんと歩く男。小走りで追いかける私。しかし男は背中から、近づくんでない、というオーラを出す。がんばれ、旅が楽しくなるぞ、と強い気持ちで近づく私。が、男は駐車場に着き、さっと白い車に乗り込み、去っていってしまった。負けた。競馬にも負け、その男にも負けた。まだ夜は少し残っていた。
建物の中に戻ると、年内最後の開催ということで、門別競馬所属のジョッキーが全員出てきて、ファンサービスをしていた。写真を撮ったり、サインをしたり。いったいあの男はどんな仕事をしているのだろうか。門別の夜の店に行けば、彼に会えるかもしれない。タクシーを呼んでもらい、街を目指すことにした。