網走駅で自転車を借りて、能取岬まで30分。海のそば、山の中を走り、ようやく到着。灯台の近くにあるベンチで弁当を食べて、することがなくなった。海を眺めて、これがオホーツク海か、とひとりつぶやき、退散。来た道を戻ろうか、もうひとつのルートで帰ろうか。もらった観光地図を眺める。ざっくりと、道はふたつ。遠回りになるけど、来た道とは別のルートを選んだ。ゆるやかな山道をずっと登ってきたので、体はけっこう疲れていた。だけどなんとかなるだろう。自転車にまたがってヘルメットを装着した。
しばらく自転車を漕ぐと、果てのない、映画のような風景に出会(でくわ)した。
絶景
なかなかこんなところ自転車で走れないな、と写真をパシャパシャ撮った。
さらに走ると、海が近くなり、浜に降りられるところがあったので降りてみた。自転車を砂利道に停め、砂浜を歩く。振り返ると、自分の足跡だけが、付いていた。
自転車に戻り、また走り出すと、風景が変わった。遠浅の海で、人が何人かいる。アサリか何かを獲っているのか。地図を見ると、そこは海ではなく湖だった。能取湖というらしい。湖沿いの道には、車がたくさん停まっていた。そのまっすぐな道をひたすらに走った。
行きの時は山の中を走っていたのであまり気にならなかったが、湖沿いの道は、日光がもろに当たった。ヘルメットの中は汗だらけ。時は7月12日。北海道のオホーツク地方は少し涼しいかと思ったら、関東とあまり変わらない猛暑。だんだんクラクラしてくる。ペットボトルの水も切れかけていた。さらにどこからかハチも飛んできて、なぜか並走してくる。やめろっ! と注意しても、ついてくる。いったいどういう習性なのだろう。しばらく並走して、すーっと先の方に飛んでいって安心したかと思うと、地べたに止まって待っている。そして、こちらがそこに到着すると、またホバリングしてついてくる……。これを何度繰り返したことか。ハチは完全に、こちらを揶揄(からか)っていた。体格差はあるが、完敗だった。
ハチとの攻防
前日の酒で水分は持っていかれ、ペットボトルの水も切れ、自販機もコンビニも見当たらない。ちょっとマズいなと思い地図を取り出す。もう少し行けば、街のほうへつながる道らしきものがある。そこで合っているだろうか。
とりあえずその道に入った。走ってきた道よりも狭い、ほんとに先が見えない、蜃気楼がゆらゆら揺れているまっすぐな一本道だった。後ろからでかいトラックが迫ってくる。よける。さらに大学行きのバスがブオーンと音を立てて走っていく。いったいどれくらい走ったら良いのだろう。後ろを見ると、遠くに農業用のトラクターが走っていた。ゆっくり近づいてくる。道が下り坂になった。長い下り坂だ。なぜか、ここで闘争心が湧く。よし、この坂で一気に引き離すぞ。坂を下った。気持ちよかった。振り返ると、トラクターは遥か後方に、あった。
体感では20分以上走り、ようやく街のようなところに出た。コンビニがあった。助かった。中に入りでかい2リットルの水を買う。外に出てそれを頭からかけた。冷やした。いや、その前に洗面所を借りて、顔を洗い水を頭にかけたのかもしれない。記憶が曖昧だが、とにかく外で冷たい水をかけた。駐車場の車は熱を帯び、みな中でクーラーをつけ、休んでいた。作業着姿の男が2人、車の中からこちらを眺めていた。ようやく、少し、楽になった。その後も日陰で冷たいペットボトルを、額と首筋に交互に当てた。
しばらく休んだので、また自転車にまたがった。川沿いの道が自転車で走れるようになっていた。そこを走ると、やけに涼しい風が吹いた。川沿いだけ、5度以上は涼しかった。その道をゆっくり駅のほうに向かった。
自転車を戻すまでにまだ時間があったので、駅を通過し、そのまま港のほうにある道の駅へ。外に自転車を停め中に入ると、大きな観光案内所があった。貸し自転車も数台あり、壁には「サイクリングコース」の紹介が。サイクリングコース……。あの過酷な道程は、そのような爽やかな呼び名だったのか。自分が走った道はコース3、岬周遊コース……。しかし、移動距離数を見ると、37キロ。37キロ! そうだよね、やっぱりけっこう距離あったよね。で、移動時間は約2時間半。