企業として需要に応えることが原則だとしても、性のような命や人権に関わることは例外として、適切な情報にアクセスできるよう、プラットフォーム側が整備することが必要ではないでしょうか」
中島さん「今の社会ではアダルトコンテンツを子どもたちに見せないということは、絶対に無理だと思っています。だからこそ、適切な性の知識を学び、アダルトコンテンツとはどういうものかということをまず知ってから見るようにしてほしい。今はその順番が逆になってしまっていることが問題なのだと感じています」
見えてきた変化の兆し
「SEOセックスプロジェクト」に対しては、「ペアレンタルコントロールやセーフサーチをつければいい」「『とは検索』をすれば解決できる」など、ネットリテラシーについて“助言”する反応も少なくなかったというが、問題はそこにあるのではない。
伊東さん「たぶん、ネットリテラシーを教えようとする側より、ネットにずっと触れてきた僕らの世代の方がリテラシーがあるんです。助言されたようなことはだいたいすでに試していて、それでも、ネットの性情報で必要なものが見つけられなくて困っているということ。インターネットが安心安全な性教育の学びのプラットフォームになるには、今のままでは厳しいと思います」
「SEOセックスプロジェクト」が求めているのは、アダルトコンテンツがまったく検索に引っかからないようにすることではなく、より安全に性を学べるようにネット環境を変えていくことだ。
とはいえ、ネット検索でどのようなサイトが上位に上がるかという仕組みを変えるには、プラットフォーム側にコストの負担が伴う。また、どのようなサイトが「性についての適切な情報か」という基準もはっきりとはしていない難しさがある。
中島さん「いろいろな課題があるとは聞いていますが、たとえば今、『死にたい』と検索すると、グーグルやヤフーでは厚労省の相談窓口につながるサイトがトップに出てくるようになっています。これが可能になったのは、自殺は”絶対にいけない”という考え方が根底にあってのことだと思いますが、そういう意味では性教育や性被害についてはまだ軽視されているということなのかもしれません」
「SEOセックスプロジェクト」が署名活動を行う中、6月3日、ヤフーは内閣府と連携し、「性暴力」「強姦」などヤフー側が登録したワードで検索すると、全国の「ワンストップ支援センター」につながる短縮ダイヤルがトップに表示される運用を始めた(2021年6月13日「朝日新聞デジタル」)。「SEOセックスプロジェクト」の活動以前から、運用変更を検討していたというが、今後、他の検索エンジンは同様の動きを見せるだろうか。
前田さん「今回のヤフーの運用変更は喜ばしい変化だと思います。ただ、「ちかん・下校中」など検索ワードによっては、やはり以前と同じような結果が出るなどの課題も見られるので、さらにこの動きを進めていくことが大切だと考えています」
「SEOセックスプロジェクト」では3万人の署名を集めることを目標に、厚生労働省、文部科学省、内閣府と大手検索エンジン会社に要望を提出することを目指している。各省庁には「性に関する必要な情報を精査し、一覧にまとめたサイトを作るか、すでにある民間サイトの後援」を、また検索エンジン会社には「信頼できるサイトや緊急連絡先などが検索上位に出てくるような仕組みの見直し」を要望し、その際には、上位に上がることが望ましいサイトや、対象とするべき検索ワードの例なども提案する予定だ。
伊東さん「僕たちのプロジェクトに対して、とても多かった反応が、『アダルトコンテンツがネットにあふれていることが当たり前になっていて、こういう問題があるということに気づかなかった』というものでした。この活動が、ネットの性情報をめぐる問題の解決に意識を向けるきっかけになればと思います」
ペアレンタルコントロール
未成年に悪影響を及ぼす恐れがある性的・暴力的表現などを含むコンテンツにアクセスできないよう、子どもの情報通信機器の利用を保護者が監視・制限する取り組み。
セーフサーチ
検索エンジンでポルノや暴力などの不適切なコンテンツを非表示にする自動フィルタリング機能のこと。