「顕教」と「密教」の使い分け
ツイッターや対談書籍で定期的に強い言葉を投げかけて、コアな支持層の機嫌を取ってあげると、彼らは1人で何冊も同じ本を買ったり周囲に熱心に勧めたりする「信者」になってくれる(同様の現象はギルバート本でも確認されている)。書籍のマーケティングの上では鉄板の固定票層が形成されるのだ。
しかも、一部の信者たちはSNS上で書籍を宣伝したり批判者を叩きのめしたりするサイバー十字軍として、自発的に活動してくれるようになる。こうした動きが出ると、アンチ勢力も必死で信者や書籍を叩きはじめる。ネット上で愛国十字軍とアンチゲリラの内戦が激化すればするほど、結果的に書名の露出は増えていく。
いっぽう、著者グループが信者向けに発信する過激な言説とは裏腹に、本体である書籍自体は極めて穏健で人畜無害な内容にすぎない。ゆえに、著者の知名度や書名の露出の多くなるにつれ一般層にも本が売れていく――。
『日本国紀』の大ヒットはこうした構図に支えられたものだ(ほか、版元の幻冬舎が全国4500店舗ともいう同社の特約書店の店頭に大量の『日本国紀』を並べさせて「大ヒット感」を演出したとされる点もかなり重要な要因のはずだが、こちらについては出版流通の話になるので深くは言及しないでおく)。
さておき、本来は特に目新しい情報が含まれているわけでもない本文509ページのハードカバーの書籍(税別1800円)を、「日本通史の決定版」と銘打って65万部以上の大ヒットにつなげる仕事は並の出版人にできることではない。
有本氏は『副読本』の208ページ、213ページ、215ページなどで繰り返し、百田氏を「天才」と呼ぶが、私もその意見に100%賛成だ。加えて言えば百田氏のみならず、有本氏や幻冬舎の関係者が極めて優れた才能を持つ一流のプロであることも間違いない。私は書籍の内容には心動かされなかったが、職業人としての彼らの水際立った手腕については、心からの深い感動を覚えている。
――天才、百田尚樹先生万歳! 百田先生の親密なる戦友、有本香先生九千歳!
私はこの「反乱」の書の感想を、わが家の神棚に向けてそう報告させていただく。
【『日本国紀』のちょかり指数 】
ちょかり度……★★ (『副読本』★★★★)
独創度……★ (『副読本』★★)
愛国度……★★ (『副読本』★★★★★)
反乱度……★ (『副読本』★★★★)
天才度……★★★★★ (『副読本』★★)