ワシントンに軍事的な議論をぶつける
前回の連載で触れたとおり、私が事務局長を務める新外交イニシアティブ(ND)では、この2017年7月、「軍事的視点から見ても、辺野古の基地建設は不要である」という提言をアメリカの首都ワシントンで発表した。
この7月の訪米は、報告書の筆者である半田滋氏(東京新聞論説委員兼編集委員)と屋良朝博氏(元沖縄タイムス論説委員・ND評議員)にご参加いただいた。両氏は、日本において、自衛隊や米海兵隊の運用についての有数の専門家である。
これまで、沖縄基地問題をワシントンで訴えても、アメリカ側から投げられる安全保障の疑問に専門的な視点から回答することは難しかった。
「辺野古への基地建設反対はわかった。では、北朝鮮や中国の脅威はどうしたらいいのだ」
そんな決まり文句のような質問をアメリカで(日本でも)受け続けてきた。これに答えを示すべく、NDでは普天間基地移設問題についての研究会を立ち上げ、3年間研究を重ねた。
今回は、その成果をアメリカのポリシーメーカーたちに向けて発信する大きな挑戦であった。
シンクタンクでの発表
まず、東西センター(East West Center)というワシントンにあるシンクタンク主催のシンポジウムでND報告書を発表した。
60席という比較的狭い会場ではあったものの、会場に立ち見が出る盛況となった。聴衆の多くはシンクタンクの研究者やメディア、市民団体のスタッフ、また、在ワシントンの日本メディアなどであり、国防総省や国務省のスタッフも参加していた。沖縄の問題がワシントンで議論されなくなって久しい。どのくらい人が集まるか心配であった私は、いっぱいになった会場を見て、ひとまずほっとした。
はじめに私から沖縄の基地問題の全体像やこの間の情勢などについて話をした。辺野古基地建設が20年もの期間を経て、ついに基地建設に向けて沿岸部を埋め立てる護岸工事が始まってしまった様子や、今なお活発な沖縄の反対運動、また、政治状況などについて説明した。
続いて、屋良氏が本提言を説明をした。詳細は前回の原稿をご覧いただきたいが、既に決められている日米合意の実施後わずか2000人ほどの実戦部隊(31MEU)しか沖縄に残らない海兵隊については、その部隊が移動のために必要としている船に乗り込む場所を変更することで、辺野古に基地を作らずとも現在の海兵隊の機能は維持できる、というものである。
半田氏からは、日本政府は抑止力を理由に基地建設が必要と説明しているが、海兵隊の実働部隊のほとんどがすでに沖縄からグアムなどに移転するとされており、抑止力のためとの説明は虚偽ではないかという問題提起があった。
会場からの質問は途切れることなく続いた。
「この案は日米政府に提案したのか。したのであれば反応は?」というのが最初の質問。「基地従業員の生活権保障について何か提案をしているのか」といった質問や、また、「日米合同での人道支援活動を提案しているが、その指揮系統はどのようなものとすべきか」といった軍の運用面からの質問も出た。「沖縄はこんなに反対しているのに基地建設が強行されるのはなぜか」という質問に、屋良氏が「日本は民主主義国ではないからですかね」と冗談半分で切り返すと、会場に笑いがもれた。
1時間半余りのシンポジウムであったが、私たちからの、「辺野古に基地を作らなくとも米軍のミッションは現状通り遂行できる」との提言に強い反対の声は聞かれなかった。
沖縄はいつになったら怒るんだ
なお、提言からは少し外れるが、シンポジウムの中で一番私の心に残っているのは、コメンテーターとして登壇したマイク・モチヅキND評議員(ジョージワシントン大学准教授)のコメントの一つであった。
彼は、辺野古の基地建設に反対する立場から、これまで国務省などにこの問題について懸念を伝える際、「このままいくと沖縄の怒りが嘉手納基地などほかの基地にも広がる」「安定した日米同盟を重視するなら、基地建設を強行すべきではない」と説明してきた、と話した。
そして、氏は「しかし、最近は、そういう話を私からしても、米政府の方から『本当にそうなのか。どのくらいやったら沖縄はそこまで怒るのか』と言われる。この忠告が効くような状況にない」と続けた。
「基地建設を強行すると沖縄の怒りは普天間や辺野古にとどまらず、米軍が最重要視する嘉手納空軍基地にまで広がる」というのは、沖縄の方々がアメリカで基地反対を訴える際に、頻繁に指摘する点である。
このモチヅキ氏による指摘は、真剣な沖縄の反対運動に対し、その真剣さや程度を測るような米政府の態度を示すものでいかにも侮辱的であるし、このくらいの反対ならまだ大丈夫だとアメリカ政府が考えているという点でも、沖縄の真摯な反対の声を受け止める姿勢がないことの表れであるとも言え、大変残念であった。