しかし、それをバックエンドで支える原発マネーで立地自治体は潤う。青森県の統計によると、再処理工場等を有する六ヶ所村の一人当たり平均所得(平成28年度)は1656万円で、青森県平均の256万円の実に6.5倍である。
あるコミュニティーの中で企業や国が巨大な存在となった時には、そのコミュニティーの民意が変化していく。
例えば、日本の最西端、沖縄の与那国島には、島民の意見が二分される中、自衛隊が配備された。人口1700人の島に250人以上の自衛隊関係者が住み始め、人口の15%を占めることとなった。「もう、この問題を議論することはできない」との声が上がっている。
数年に一度戦争をしなければ国が持たないと言われるアメリカ。その背景は軍事産業である。アメリカでは軍や軍事産業が社会の隅々まで入り込んでおり、多くの人はそれに直接間接に関連した職業に就き、生活の糧を得ている。
戦争大国アメリカの姿を変えるのは極めて難しい。
青森もこれらに似た構造にある。
日本の原発政策の命運を握る青森
福島第一原発事故後の2012年9月、当時の民主党政権は「2030年代に原発及び再処理ゼロ」を閣議決定しようとしていた。しかし、青森県知事と下北半島の原子力関連施設立地4自治体の首長の反対で再処理ゼロが決定できなかった。それを受け、アメリカから、「再処理を続けるのに原発を止めるということは、再処理から出てくるプルトニウム(核兵器の原料となる)は使わず、溜め続けるつもりか」と言われ、結局2030年代の原発ゼロも決定できなかった。これにより、日本は、現在に至るまで原発稼働の方針を掲げ続けている。
青森の再処理工場の命運は、「使用済み核燃料全量再処理」政策を掲げる日本において原発そのものの行く末にかかわっている。
青森を忘れていないか
青森県の観光地や道の駅には至る所に「核燃サイクルは素晴らしい」と訴える立派なPRリーフが置かれている。CO2を排出せず、地球を守り、森や動物たちを救うきれいなエネルギー、との説明がどこへ行ってもなされていた。
国策にからめ捕られて、選択肢を奪われ、声を上げることすらできなくなっている青森。沖縄の基地も福島の原発も深刻な問題であるが、少なくとも人々に認知はされている。
「忘れられた青森」。これが今回の調査の感想だ。日々電気を使い続ける私たちが青森のことを忘れたままでいいのだろうか。
一人当たり平均所得
企業の利潤を含む市町村民所得の合計を総人口で除したもので、個人の所得水準をしめす指標ではない