経済活動再開を訴える人々のデモに対して「ミネソタを解放しろ」「ミシガンを解放しろ」などの応援メッセージを自身のツイッターで流したことでも話題になった。
なお、4月後半から段階的に経済活動が再開され、6月中旬の現在までに、程度の差はあれ全ての州が経済活動を再開している。中でも、知事が共和党の州は、早期から経済活動再開を率先して進めてきた。財界に支えられている共和党にとって、経済活動の復興は急務である。トランプ大統領に近い保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」が、スウェーデンの「世界で最も規制の少ない新型コロナ対応」を評価し「経済的自由」の実現を目指す論評を同財団のニューズレターのトップに掲載しているのを見て、私は苦笑いしてしまった。小さな政府を追求するアメリカの保守が、大きな政府の代表である福祉大国スウェーデンをモデルとすることは、普段であればけっしてないからである。
経済活動の再開を積極的に進める共和党系の知事と、慎重な姿勢で臨む民主党系の知事で、その対応は二分される。共和党の支持者の多い内陸部の州(「レッドステート」という)では、当初、都市部ほど被害は拡散しておらず、知事も共和党であることから経済活動再開の動きが早くから活発化したが、新型コロナ感染拡大が著しい東西の海岸沿いの都市部は民主党が強く(「ブルーステート」という)、コロナ感染拡大が著しいのはこのエリアであったため、経済活動再開には極めて慎重な姿勢をとり続けてきた。今日に至るまで、経済活動の再開を巡って、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事に代表される民主党の知事と共和党のトランプ大統領は激しい対立を続けている。
なお、経済活動を早期に再開した州では、6月に入って感染の広がりが顕著になっている。6月半ばの現在、州によってはこれまでの最大の感染者数を記録し、集中治療室の利用率が8割を超えたり、人工呼吸器が不足するおそれが出たりするなど、再び事態が深刻化している。これらの州の影響を受け、米国全体でも、1カ月以上減少傾向をたどっていた感染者数が上昇に転じている状況にある。
アメリカ社会の分断を見ながら
私がこの一連の流れの中で驚きを持って見ていたのは、保守とリベラルの二極化がコロナ禍で加速度的に進んだことであった。
5月末から6月初旬にかけて行われた世論調査では、民主党支持者の74%が、コロナウイルスの感染拡大を食い止めて、“通常”の感覚に戻るまでには1年または1年以上かかると答えたのに対し、共和党支持者の約32%がすでにウイルスの封じ込めに成功したと答えたとの結果が出ている。
共和党支持者はトランプ氏の発言を全て鵜呑みにし、民主党支持者は氏の発言を全て批判するという強い傾向にある。WHO脱退、経済活動再開などいかなる論点についてであっても、トランプ氏が発言するとみな政治化され、トランピスト(トランプ支持者)はそれに従うし、民主党支持者はこれに反対の声を上げるという状況が氏の当選以来続いている。今では、個々人がマスクをするかしないかも政治論争になってしまった。
もちろん、社会の二極化はトランプ氏の登場以前から長く言われてきたことである。アメリカでは共和党支持者と民主党支持者は接するメディア・SNSが異なり、全く別の情報源から情報を得ているために、考え方の違いがさらに際立っていくという現象にある。
しかし、多くの人命が失われている極限状態においても社会の二極化がここまで徹底して具体的に表れる、というのは、大変に驚くべきことである。また、人間の考えが外的要因(例えば、トランプ大統領の発言)、あるいは、他者の意図(例えば、トランプ氏のねらい)によって形成されていることについても改めて認識する結果となった。
なお、コロナ禍中であるにもかかわらず瞬く間に全米中に歴史的規模の反人種差別デモが広がる様子を見て、「人種差別は悪である」ということに代表される「普遍的価値」が未だアメリカにもきちんと存在し、それを壊させまいとする動きもこのレベルで存在するのだというある種の安堵感を覚えた。
としても、トランプ氏に投票するとしている層は世論調査で4割を切ることはない(6月19日現在41% RCP平均[5/28 – 6/16])。この数字を見て、何があっても揺るがないトランプ支持者の存在を確認するたびに、アメリカのみならず世界の私たちが「普遍的価値」と見なしてきたものが壊れていく不安感も同時に感じざるを得ない。
この連載の第19回で記した友人の言葉を思い出した。
「これ(トランプ政権)が8年続くというのは、社会の在り方を大きく変えてしまうということを意味するんだよ。8年後には、おかしいと今感じていることを、おかしいとは全く感じなくなり、むしろそれこそが正しいと思うようになりかねない」
当時(2019年12月)は、民主党候補者が誰になるか絞られていなかった。バイデン氏が「普遍的価値」を維持するのに最も適した大統領かどうかは、意見も分かれるだろう。しかし、トランプ政権が来年以降も続いたらどうなるか、という意味では、この言葉は、半年たった今、さらに正しく事態を表現しているように聞こえる。
「普遍的な価値の破壊」
この意味においても11月の米大統領選挙は、アメリカのみならず世界にも大きな影響を与えるものとなるだろう。