突然だが、これを読んでいる女性に聞きたい。
もしあなたが、何らかの理由で経済的に困窮し、家賃を滞納し部屋を出ていかなければならなくなったとしたら。
頼れる家族はすでに亡く、友人たちには借金を重ねたせいで関係性が切れている。必死で職を探したものの見つからないうちに所持金も尽きそうだ。両手に持てるだけの荷物を持ち、寒空の下、たった一人、路上に出る。
少なくない人が、ここで自ら命を絶つことを考えるかもしれない。しかし、怖くて死にきれない。そうして初めての路上生活が始まるのだが、「ホームレス状態である」ことがバレないよう、あなたは必死で身綺麗にし、夜はとにかく身を隠す。
そんなある日、あなたは男に声をかけられる。何度か駅や公園などで見かけたことがあり、家がないのかな、と思っていた男だ。どんな人なのかわからないので怖いが、そのうちに炊き出し情報を教えてくれたり食べ物をくれたりするようになる。
そんな日々の中、あなたはその男性とカップルになる。特段好きなわけではない。が、路上で身を守る方法として、それが最善の方法に思えたからだ。男性といるだけで、女性一人では決して得られない安心感がある。少なくとも、夜間、見知らぬ人の暴力から守られる。
しかし、そんな「安全」と引き換えに、あなたの自由は制限される。男性の要求には、決して逆らえないからだ。
そんなことを突然書いたのは、2021~22年の年末年始、困窮者支援の現場にはりついていたからだ。
ホームレス状態の女性は男性と比較してまだまだ少ないものの、炊き出しや相談会に来る女性たちは、コロナ前と比較して格段に増えている。
例えば08年、リーマンショックの年の暮れから翌年の年明けに日比谷公園で開催された「年越し派遣村」。ここには6日間で、派遣切りなどで職も住まいも所持金も失った505人が訪れたが、そのうち女性はわずか5人(1%)。
一方、20年から21年にかけ、「年越し派遣村」の有志が大久保公園(東京都新宿区)で開催した「コロナ被害相談村」には、3日間で344人訪れたうち、女性は62人(18%)。そのうち29%がすでに住まいがない状態だった。
そうして、この年末年始、やはり大久保公園で開催された「コロナ被害相談村」には、2日間で418人が訪れた。そのうち女性は89人(21%)だった。
女性のホームレス化は、私にとっても他人事ではない。16年間、貧困問題をメインテーマとして取材・執筆しているが、なぜかといえば自分自身が高卒でフリーランスの単身女性という、あまりに貧困リスクが高い条件を兼ね備えているからである。フリーター時代には「うちら、親が死んだらホームレスだよね」と友人と話していたし、今やフリーターより不安定なフリーランス。クレジットカードは数年前まで作れず、賃貸物件の入居審査にも落ちるという安定の不安定ぶりだ。
そんな中、10年ほど前には、友人の女性がホームレス化した。電話でしか話せていないが、失業して一人暮らしができなくなり実家に戻ったものの、家族とトラブルになって実家を出て路上生活となった彼女は、路上で出会った男性とカップルになり、関東各地を転々としていることを話してくれた。そんな彼女は、随分とその男性に振り回され、束縛されているようだった。私が「生活保護を受けた方がいいのでは?」と言うと、「そうしたいけど、彼が、申請すると二人はバラバラの施設に入れられて離れ離れになるからダメだって」と言い、心配だから会いに行くと言うと、後日、その彼に予定を潰された。
「彼が、何年も会ってない友達より自分を信じろって言うの。雨宮さんのこと信じてないわけじゃないけど、ごめんなさい……」
約束の前日、そう電話してきた彼女の口調は苦しげで、隣に彼氏がいる気配が伝わってきた。変に粘って困らせてしまうのも危険なので、その時は頷いて電話を切った。折を見てまた電話しよう。それから少し経って連絡した時、彼女の携帯は止まっていた。「しまった」と思ったが後の祭りで、以来、彼女がどうしているかわからない。
さて、これまで貧困問題に取り組む中で、住まいを失ったカップルの支援を何度かしてきた。その中には、冒頭で書いたような「路上で出会った」カップルもいれば、同棲していた部屋を出された場合もあった。支援活動をする中で気づいたのは、どんなに仲が良さそうなカップルでも、何かしら問題を抱えているということだ。特に女性は男性の前では何も言えないものの、男性から物理的に離して話を聞くと、DVなど、いろいろな問題が出てくる。
だからこそ、女性支援の現場では、とにかくカップルは引き離して話を聞くことが重要とされている。なぜなら、女性は「最悪」を回避するために「最悪よりマシだけど嫌なこと」を選択し、我慢している場合も多々あるからだ。
と、そんなことを考えていて、突然、昔のことを思い出した。中学・高校時代のことだ。
現在40代なかばの私が中高生の頃、世の中はヤンキー全盛期だった。