このことについて報告書は「経済生活問題や勤務問題、DV被害や育児の悩み、介護疲れや精神疾患など様々な問題が潜んでいる」と指摘する。もともとあった問題が、コロナ禍でさらに深刻化したという形だろう。報告書には何度か〈もともと崖の近くにいた女性が、コロナによって崖のギリギリまで追いやられた〉という表現が登場するが、まったく同感だ。
それでは、コロナ感染者数に男女差はあるのだろうか。報告書によると、国内での感染者は4月27日現在、累積で57万人。うち女性は46%と約半数。しかし職種別に見ると、女性感染者には医療関係、介護福祉関係、児童施設関係、店員・接客関係の割合が高い。
詳しく見ていくと、医療関係(事務等含む)で感染した人のうち、70%以上が女性。介護・福祉関係(事務等含む)では60%以上が女性。児童施設関係では90%以上が女性だ。業務以外での感染も含まれるということだが、感染リスクの高い職場で働く多くが女性である。
ちなみに日本の医療・介護従事者のうち、女性が占める割合は、看護師92%、訪問介護員78.6%、施設介護職員70.1%。また、保育士は95%、幼稚園教員は93%が女性。しかし、これが大学教員となると26%にまで下がる。
一方、コロナで大きな影響を受けた宿泊・飲食業で働く人のうち、女性が占めるのは64%。うち女性非正規が54%を占める。この層の多くが長期的な影響を受け、困窮に陥っていることは多くが知る通りだ。
報告書は、他にもさまざまなことをあぶりだした。20年の平均で、女性の非正規労働者が50万人減ったこと(男性は26万人)。同じく20年の平均で、休業者は男性104万人だったものの、女性は152万人だったこと。女性の収入が1割以上減った家庭では、5世帯に1世帯が食費の切り詰めをしており、1割弱が公共料金の滞納をしていること。
コロナ禍で、正規で働く人より非正規で働く人の方が不安が増していることも明らかになった。
20〜39歳の非正規雇用者の38.5%が、不安が増していることに「生活の維持、収入」を挙げている(同世代の正規は30.1%)。40〜59歳の非正規雇用者では37.1%(同世代の正規は30.5%)。「将来全般」への不安の増大も20〜39歳の正規雇用者が20.7%なのに対し、非正規雇用者は27.4%。40〜59歳の正規雇用者では23.9%なのに対し、非正規雇用者は32.4%だ。
男女別で見ても、女性の方が不安が増大していることがわかる。
また、感染リスクに大きく関わるのがテレワークできる/できないという問題だが、こちらの格差も浮き彫りになっている。テレワークの実施調査によると、20年5月、女性、非正規雇用労働者、低所得者のテレワーク比率はいったん増加したものの、同年7月にはほぼコロナ前の水準に戻っていたという。
第4波の現在、どうなっているかは不明だが、正社員や所得の高い人ほどテレワークができ、非正規や低所得の人ほどテレワークができないという格差はコロナ禍初期から歴然とある。
コロナで浮き彫りとなった女性を取り巻く状況。
報告書は、ひとり親世帯や単身女性も増える中、「女性の収入は家計の補助」という考えそのものを改めるべきと主張している。
そうして最後の「政治分野への参画」という章には、なんとも痛快な文章があった。以下、引用だ。
〈これまで議員として政治に参画するためには、毎晩のように会合に参加し、地域の行事に出席せずして、地域コミュニティの中で密なつながりを築くことができない、という「慣習」が存在し、その慣習に従わないと議員になれないことが、そもそも女性が地方議員として活躍するためのハードルになっていた。それが今、コロナにより会合・行事自体が開催されずこの動きが半強制的に止まったことは、女性議員たちにとっては幸いな結果をもたらした〉
〈また、早期からコロナ下での独自の支援策を打ち出したところには、女性議員たちの活躍があった。さらに、昨今、「生理の貧困」の問題が顕在化しているが、これも女性議員たちからの問題提起によるものである。これらは、多様な視点が政策論議に入ることで、これまで見過ごされてきた問題にメスをいれることができた良い例である。こうした流れを、昭和の時代の男性中心の旧態依然とした慣行を見直して、ジェンダーに配慮した施策の実現を加速するとともに、女性による政治参画に拍車をかけるチャンスとしていく必要がある〉
この文章が示すように、長らく政治は「おじさんの飲み会」なしでは進まないと思われていた。しかし、コロナによってそれができなくなった今こそ、そういった「飲み会政治」を変えていくチャンスなのかもしれない。そうして女性が政治の場に多く参加して初めて、女性の苦境に光が当たる。
失業者や自殺者の増加など、散々なことばかりのコロナだけど、後から振り返って「あの時、コロナ禍がきっかけで女性に優しい社会になったよね」なんて言えたら、今の苦労も少しは報われる気がする。
そうなったらどんなにいいだろう。そう思いつつ、報告書を閉じた。