それは女性誌「CanCam」10月号(2014年、小学館)のコマーシャル。「私って、平均ですか?」というような内容のテロップが躍る画面で、メジャー(巻尺)を持った女の子が、自分の体のいろんな部分を測っている。
うろ覚えだが、顔の大きさとか、二の腕とか。
ああ……この暴力的な同調圧力、見てるだけで苦しくなる……。
そう思いながら電車を降りたのだが、後日、どうしても気になって「CanCam」10月号を入手。恐怖新聞を開く気分でページをめくった。
まず表紙に躍るのは、「私って、どのくらい“平均”ですか!?」のキャッチコピー。特集ページを開くと、「なんでも! かんでも! 比べてみよう♡ CanCam女子の“ザ・平均”BOOK 2014」。
しかもこの号には、ご丁寧に「メジャー」がふろくで付いている。そしてそのメジャーには、「CanCamモデルのサイズ」や「CanCam読者の平均サイズ」という、「余計なお世話」的情報までプリントされているのだ。
私はそれを勝手に、「強迫メジャー」と名付けた。
例えば、メジャーの8センチあたりの部分には「久住小春の中指の長さは8.2センチ」という、「だからどうした?」というようなことが書かれている。が、「山本美月の顔の横幅は12.8センチ」「CanCam読者の顔の横幅の平均は16.2センチ」「若山あやのの二の腕の周りは22センチ」「CanCam読者のウエストの平均は60.6センチ」なんて文字を見ていると、だんだん追いつめられてきて、気がつけばせっせと体のあちこちを測っている自分がいるではないか!
そして、ことごとくそれらの数値をオーバーしている自分に打ちのめされている私がいるではないか!
敵のわなにまんまとハマっていることに気づいた私は、とりあえず「強迫メジャー」をブン投げた。
しかし、特集ページには、もっと細かい平均値が羅列されているのである。
目の大きさの平均がタテ1.2センチ、ヨコ3.2センチとか、黒目の大きさが平均1.1センチとか、鼻の高さが平均2.8センチだとか……。
また「ライフスタイル」の平均値なんてのもあって、「1日にトイレに行く回数」が5.2回だとか、「持っている下着の枚数」はブラジャー7枚、パンツ9枚とか、「その情報が一体何の役に?」という疑問符で頭がいっぱいになる。
さらに「CanCam女子の『H』な“ザ・平均”」というページでは、初体験の年齢が平均で17歳だとか、フェラにかける時間が平均8分15秒だとか、1回のセックスにかける時間が平均51分だとか、1カ月に皆さん平均3.3回なさっているだとか、なんだか妙に生々しい「平均値」が並んでいるのである。
そんな平均値特集を読み終わる頃、私は非常に疲弊していた。女性誌を読むといつもなんとなく追いつめられ、強迫観念に似たものに全身が包まれてざわざわするのだが、その特集は私にかなり重篤な症状をもたらした。
こういった特集を読んで、みんな「え! 私って平均以下?」などと思い、せっせとエステに行ったり、美容グッズを買ったりなどの「自分磨き」にお金と時間をかけるのだろうか。本当は、そのままで十分いいのかもしれないのに、「今の自分」を肯定してしまうことがなんとなく「ズボラ」と思われてしまうような女性誌の醸し出す空気。
私たちの生きづらさって、そんなところからも作られている気がして仕方ないのだ。
さて、久々に「平均値」特集で苦しくなってしまった私だが、そういう情報を入れると苦しくなるのがもうわかっているので、普段はそういった類いの雑誌は一切読まないようにしている。さらには、「女性誌っぽい価値観を持っている女子」という人種とも接しないように気をつけている。
なぜなら、私にとっての「生きづらくならないコツ」は、余計な情報を入れず、人と比較しないこと。この二つに尽きるからだ。
よって私は普段、キラキラした人を極力避けて生きている。なんだかそのポジティブなオーラに押しつぶされそうになるからだ。
なので普段付き合っている人たちは、もっさりした人ばかり。もしくは「比較しようがない」ほどに「規格外」な人だ。
例えばこの数日間、私は「徴兵制が嫌でフランスに亡命した、22歳の韓国人男子」と行動を共にしていた。日本外国特派員協会(外国人記者クラブ)で彼の記者会見を開くことになり、フランスから呼んだのだ。その数日間、話したのは徴兵制や軍隊や戦争の話ばかり。女性誌的生きづらさを感じる瞬間は一度もなかった。
また、数日前に飲み明かしたのは、「1990年代に独裁政治のイランから逃れて日本にやってきたものの、イラン労働者共産党員のため、帰国すると死刑になるので近々カナダに亡命する予定のイラン人男性」だ。
最近、私の周りでは「亡命」がはやっているのだが、どうも世間ではまったく流行していないようである。
とにかく、このように「規格外」な人といると、「平均値」なんてみみっちいことは考えもしない。もちろん、他の同性と自分を比較するなんて想像にもおよばない。なのに、ふと女性誌を開いてしまうと、たちまち「同調圧力」に巻き込まれ、苦しくなってしまうのだ。最初は笑い飛ばしていられるのに、まだまだ修行が足りないようである。
生きていれば、いろんな情報にさらされることは避けられない。私の中にも、「平均」が気になってしまう自分がいる。まずは自分の中の、ものすごく日本ローカルな「平均値メジャー」を捨てるところから始めよう。と思ってさっきブン投げた「強迫メジャー」をふと見れば、うちの猫がオモチャと勘違いしてかじってグチャグチャにしていた。
わが猫よ、そのメジャーをボロボロにしたまえ。そして、「平均」など一切気にしない猫の気高さを私に与えたまえ。
そう思いながら、今、猫によってメジャーが破壊されるのを眺めている。
次回は11月6日(木)、テーマは「女性の活躍」の予定です。