高性能化する端末、電源も進歩
スマートフォンの進化は目覚ましい。6インチに迫る高精細な大画面、クアッドコアのプロセッサーを搭載したパソコンと比較しても遜色ない情報処理能力、7ミリを切る薄さを誇る製品の登場など、端末メーカーはしのぎを削って新製品を発表している。現在、最も改善が求められるのは電池の長寿命化であろう。スマートフォンは使い続ければ一日も持たず、改良を望む声がもっとも大きい。ニッカド電池、リチウム、リチウムポリマーと進化してきた携帯端末向け電池だが、次は燃料電池に期待がかかる。燃料を持ち歩くその安全性をクリアするのに想定以上の時間が掛かっている分野だが、これが可能になれば、端末の使い方自体が飛躍的に変わるほどの可能性を秘めている。
充電方法も大きく変わるだろう。端末を充電コードで接続せずに充電できるワイヤレス給電技術の商用化が始まった。これにより端末を付属品のマットに置くだけで充電できるようになったが、さらにそのマットも必要としない技術の開発も進んでいる。こうなれば、「充電」という行為がなくとも、知らず知らずのうちに充電されることになる。
ディスプレー関連の技術開発も進む。端末向けにはモノクロ、カラー液晶と進化したが、ハイエンド向けには電池消費量が比較的少なく鮮明な有機ELディスプレーが一般的となり、解像度では人間の目にはこれ以上の進化は見分けがつかないレベルまで向上した。
特殊ディスプレーに期待
端末の形状を変える特殊なディスプレーの開発も進んでいる。ガラスのように透明なディスプレーも登場した。この新製品とAR(拡張現実)技術を活用すれば、端末ごしにバーチャルとリアルの世界を重ねてみることができる。例えば、街を歩いて素敵なレストランを見つけたら、ここに端末を向けるだけでメニューやおススメの品、口コミまでが一緒に映し出されるといった具合だ。さらに、折り曲げたり、丸めることのできるディスプレーも登場しており、将来は円筒形のスマートフォンが登場するかもしれない。ディスプレーの進化とともに、端末に情報をインプットするUI(ユーザー・インターフェース)の開発も進んでいる。iPhoneの登場とともに、端末をなぞる方法はスマートフォンの一般的な操作方法となった。さらにジャイロスコープなどの様々なセンサーを搭載させることにより、端末にふれずとも斜めにしたり、振ったりといった動作で動かせるようになった。現在最も注目があつまるのは、バイオメトリクス技術の活用だ。音声で端末に命令したり、目(瞳孔)の動きを活用したり、さらには脳波を使う研究も進んでいる。これが可能となれば、手をふれずとも自由自在に端末を動かせる、いわば呪文を唱える魔法のような操作も可能となる。
「マルチスクリーン戦略」で家電と融合へ
スマートフォンは従来の携帯電話としての域を超え、我々の生活における中核となる可能性を秘めている。まず筆頭として挙げられるのが家電との融合である。冷蔵庫やテレビ、電子レンジや体重計といった家庭内の器具とスマートフォンを連携させ、遠隔からの操作や健康管理のデータとして役立てるといった構想が進んでいる。このような家電製品は「スマート家電」などとも呼称され、数々の家電メーカーが次世代戦略に掲げている。外出先からエアコンや洗濯機を遠隔操作したり、冷蔵庫の中身を確認し料理のレシピを取り込んで調理方法を電子レンジに記録させることまで、スマートフォンで操作できる。将来はアプリケーションの内容を充実させればさらに便利な新機能も使えるようになる。
車との連携によるサービスの模索も進んでいる。車両のロックなどの遠隔操作をするといった基本的な動作に使うことのほか、燃料タンクの残量やタイヤの空気圧、燃費の管理まで、スマートフォンでコントロールできるようになる。スマートフォンに様々な個人情報や車に関するデータを搭載させておき、車のナビゲーションシステムやコンピューターとして使うことができれば、レンタカーを借りた場合でも様々な設定をパーソナライズすることが可能となる。今後、利便性の高いサービスが開発される余地が大きい分野といえるだろう。
このように、外界とスマートフォンを連携させ新たなサービスを創出する取り組みは「マルチスクリーン戦略」として、次世代のキーワードとなっている。自宅でのテレビや家電、車、オフィス、屋外といった、それぞれのシーンにおいて集客力のある付加価値の高いサービスの模索が続いている。
ビッグデータの活用で未来のサービス登場も
インターネットやスマートフォンが広範に普及し、Facebookなどのソーシャルメディアなどの活用が爆発的に増加した。これにより「ビッグデータ」とも呼ばれる多種多様で莫大な量のデータが日々発生しており、これを駆使した新たなサービスの開発が進んでいる。ビッグデータには、ユーザーの行動および購買履歴や趣味、知人や友人関係の情報という様々な情報が含まれる。これを収集し、うまく生かすことができれば、サービスの向上や新規ビジネスの創出につながる。例えば、個人の購買履歴を活用したターゲット広告もこの一例だ。ビッグデータの活用を可能としたのは、ネットワークの高速化とクラウドの進化である。スマートフォンで利用する情報をネットワーク側で迅速に処理することにより、高度な情報処理が可能となった。
このような環境を活用し、スマートフォンでの人工知能(AI)の活用も進んでいる。iPhoneの「Siri」やNTTドコモのしゃべってコンシェルはまさにこの機能であり、スマートフォン側で音声での質問の意味を聞き取り、「考えて」ユーザーの希望に応えてくれる点がその特徴である。サービスは開始したばかりでその品質には改良の余地が大きいともいわれる段階ではあるが、この分野は着実に進化していくだろう。
ITを取り巻く環境や技術は日々進化している。我々が肌身離さず持ち歩くスマートフォンは、ユーザーと外部との接点となり、コアとなり、今後もIT技術の進化とともに高機能化していくだろう。
バイオメトリクス
生物測定の意味で、指紋や声紋など、人間の身体的な特徴を登録して読み取る個人識別法のこと。
クアッドコア
4つのコアを搭載したCPU(中央演算装置)のこと。コアとは演算回路を意味する。複数の処理を同時に行うことで性能を上げることができる。
燃料電池
水素と酸素を電気化学的に反応させ発電するシステム。環境への負荷の少ないエネルギーとして注目される。ノートパソコンや携帯電話などに搭載可能な小型の燃料電池も開発が進んでいる。
AR(拡張現実)
現実環境に情報通信機器などを利用して電子的な情報を重ね合わせる技術のこと。たとえばスマートホンのカメラを通してあるビルを見ると、画像にそのビルの名称や住所、あるいは入居テナント名などが画像に重ね合わせた状態で表示される。
クラウド
クラウドコンピューティングのこと。ネットワークを経由して、さまざまなサービスを提供する形態のこと。システムの構成図などでインターネットを表す際に、雲(クラウド)の絵が多用されていたことからこの名前がついたと言われている。
ワイヤレス給電
電源コードによる接続なしで給電・充電を行うシステム。おもな方式に、送電コイルと受電コイルの間で生じる起電力を利用する電磁誘導方式、電力の伝達を受け持つ送電デバイスと受電デバイスの間で起こした磁界を共鳴させて送電する磁界共鳴方式などがある。