つまずいた日銀総裁人事
福井俊彦日本銀行総裁の任期が2008年3月19日で切れた。この日程は早くから分かっていながら、福田康夫首相が国会に「武藤敏郎総裁、白川方明、伊藤隆敏両副総裁」案を提示したのは3月7日だった。そこまで提示を引き延ばしたのには理由があった。「民主党の重鎮が『武藤(総裁)で結構だ。党四役は責任を持って説得する』と言っておられた」と、福田首相は自民党役員会などで説明した。“重鎮”とは誰か。最も疑われた民主党の小沢一郎代表は、「福田首相と話した事実はいっさいない」と全否定しており、真相は不明のままだ。
この福田―小沢両氏間のパイプは、07年秋の「大連立」話が決裂した後も水面下で続いていたようだ。ただ、与党が2月29日に衆院本会議で08年度予算案と租税特別措置法案を強行可決したことから、その細いパイプも詰まってしまった。それ以来、小沢氏は首相の電話に出なくなったともいわれる。
いずれにせよ「財金分離」を強く主張する民主党は、財務(大蔵)事務次官経験者の「武藤総裁」案を拒否。3月12日の参院本会議で「不同意」を議決した。
さらに「福井総裁―武藤副総裁」の続投を民主党側に打診したり、奥田碩前日本経団連会長と会って頼み込んだりするなど迷走が続いた。正式な2枚目のカードとして3月18日、提示したのも大蔵事務次官経験者の田波耕治国際協力銀行総裁だった。当然ながらこれも民主党に拒否され、20日以降、日銀総裁は史上初の空席となった。国際的な失態だ。「白川総裁」が4月9日国会で同意され、空席はやっと解消された。
ガソリン税でも混乱
道路特定財源に使われるガソリン税の暫定税率などを定めた租税特別措置法案は、08年3月末が期限となっていた。この期限までに暫定税率存続を定める同法改正案を成立させなければ、暫定税率がなくなりガソリンが1リットルにつき約25円安くなる。そこで与党は、1月末に租税特措法案の期限切れに備えて2カ月間、特別措置を継続する「つなぎ法案」を提出したが、河野洋平衆議院、江田五月参議院両議長があっせんに乗り出し、つなぎ法案を撤回させる代わりに、予算案と租税特措法案について「年度内に処理する」との与野党合意ができた。
しかし、与党が2月29日に予算案と租税特措法案を衆院本会議で強行採決したことで事態は一変。民主党はこれに反発して、「議長あっせんはほごになった」と主張して、年度内成立への協力を拒否した。危機感を抱いた福田首相は3月27日、急きょ記者会見して、(1)道路特定財源の09年度からの一般財源化、(2)暫定税率の維持、(3)道路整備中期計画を5年に短縮、などの新提案をした。
提案に先立って自民党に連絡したとき、伊吹文明幹事長ら執行部は、新提案が党内では受け入れられないとみて、記者会見そのものを見送るよう進言したが、受け入れられなかった。指導力不足を指摘される福田首相としては不退転の意思表明だった。
ただ、「暫定税率の即時廃止」(小沢代表)を求める民主党が拒否しただけでなく、自民党内でも真剣に検討する動きにならず、福田首相の孤立感はここでも浮き彫りになった。
内閣支持率に危険信号がともる
08年3月末で期限切れを迎えた年金記録照合問題でも、宙に浮いたまま統合されない記録が2025万件も残ってしまった。民主党は公約違反を指摘し、舛添要一厚生労働相の辞任を求め、辞任しなければ問責決議案を出す構えだ。海上自衛隊のイージス艦「あたご」衝突事故をめぐる、石破茂防衛相の政治責任も決着がついていない。
そんな中で報道各社の3月中の世論調査によると、内閣支持率は30%半ばで低迷、逆に不支持率は軒並み50%を超えている。読売新聞社が4月1~2日行った緊急世論調査によると、ついに政権危険ラインといわれる30%を割り込み26.7%となった。いや応なしに「4月政局」は厳しいものになっている。