参加首脳に気迫が感じられない
政権の命運を洞爺湖サミット乗り切りに賭けていた福田首相は、帰京するとき興奮気味だったという。議長として取り仕切ったことに満足しているというが、ただ内閣支持率の上昇につなげられるかは不透明だ。今回のサミットでは、地球温暖化対策、原油と食糧の価格高騰、アフリカ開発援助など難問が山積していたが、首脳たちの合意は限定的なものに終わった。サミット創設時の首脳たちはそれなりに世界経済の低迷打開に意欲的に取り組んだのに対し、今回のサミット参加首脳たちに、その気迫は感じられなかった。「サミット力」の衰えを示したサミットでもあった。
温室効果ガスの「半減」目標は玉虫色
今回サミットの最大の課題は地球温暖化対策だった。2050年までにCO2など温室効果ガスの「半減」目標に合意できるかどうかが焦点とされた。福田首相にとっては、アメリカ側と新興国側の双方を説得する困難な役割が課された。アメリカのブッシュ大統領は「新興国の加わらない合意は意味がない」と主張し、これに対し新興5カ国首脳は「先進国が1990年比で80~95%削減すべきだ」との政治声明を発表してけん制した。
結局、7月8日の首脳会議を踏まえて発表したサミット首脳宣言では、「G8は、2050年までに排出量を50%削減する目標というビジョンを世界全体と共有し、国連交渉で採択することを求める」ことを盛り込んだ。ここでは「共有(share)」がキーワード。アメリカは「望ましい(desirable)」とのより弱い表現とするよう主張していたが、最終的に譲歩した。
他方、新興国を含む16カ国による主要排出国会合(MEM)においては、新興国との間で具体的な数値目標は合意できず、9日発表した議長声明で「世界全体の長期目標を含むビジョン共有を支持する」とした。一応の合意の体裁を取り繕ったが、玉虫色の決着であるだけに、今後の国連での協議に委ねられた形だ。
原油・食糧高騰に強いメッセージなし
地球温暖化問題は07年のサミットでも焦点だったが、08年は新たに原油の高騰と食糧問題が加わった。首脳宣言では「原油・食糧の価格上昇に強い懸念」を表明したものの、原油市場の投機筋に対して強いメッセージを発することはできなかった。食糧問題に関しては、宣言とは別に首脳声明を発表し「国家的な備蓄制度の創設を検討する」ことや、「食糧輸出規制の撤廃」を求めた。ただ、バイオ燃料については推進派と廃止派の溝が埋まらず、稲わらなど非食糧の「第2世代バイオ燃料」開発を打ち出した程度。ここでも無力感がにじみ出た。
力の限界が明らかになりつつある
サミット参加国は当初の6カ国にカナダ、ロシアが加わった後も、主要8カ国による排他的な「大国クラブ」として存続してきたが、その力の限界も明らかになりつつある。例えば温室効果ガス問題だけとってみても、G8だけでは40%しかカバーできない。新興5カ国の27%を加えないと実効性を確保できないのだ。G8に新興国を含めたMEM(主要排出国会合)はアメリカ主導でできたのだが、ヨーロッパからもMEMの枠組みを評価する声が出始めた。このため09年もMEMを開催することはすんなり決まった。フランスのサルコジ大統領は中国、インドなど新興5カ国を加えた「G13」構想を提唱している。今後、制度疲労してきた「サミット体制」そのものが改革の対象になりそうだ。
福田首相は「早期退陣説」を一蹴
ところで、福田首相不在の永田町では、「サミット後、退陣説」がまことしやかに流布されていた。サミット終了日に、その観測が最高潮に達していたという(7月12日付「東京新聞」)。公明党の神崎武法前代表が7月3日、「支持率低迷なら退陣もあり得る」と発言したのも影響したようだ。福田首相自身は、サミットについて「多くの成果を生み出すことができた」と意気揚々。退陣説を一蹴しており、今後は8月末の臨時国会召集前に内閣改造を行う得失をはかりに掛けることになろう。