1月20日、ついにバイデン新政権が発足する。新型コロナウイルスの感染拡大から、ロックダウンの混乱、#BLM、Z世代の台頭、そしてトランプ支持者による議事堂占拠……。アメリカは、いったいどこへ向かうのか。混迷を極めたこの1年間を、ニューヨーク在住のドキュメンタリー映画監督佐々木芽生が振り返り、バイデン政権後のアメリカを考える。
(議事堂占拠や、ロックダウン後のニューヨークについては前編へ)
#BLM抗議運動
2020年5月25日、ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイドさんが、白人の警官に首を押さえつけられて窒息死した。「息ができない」と言い続けるフロイドさんの8分46秒の映像は、大きな衝撃とともにソーシャルメディアで一気に拡散された。
コロナ感染で犠牲になった多くは、黒人の貧困層で、糖尿病や心臓病などの既往症があり、健康保険にも加入していない。ロックダウン中も、低賃金で交通機関、病院、清掃、食品業界などの必須事業の底辺で働く人が多く、感染の危機にさらされていた。この事件で、彼らの怒りが沸点に達したのだった。
フロイドさんは、武器を持っていなかったし、抵抗する意思もないと釈明することさえ許されないまま、白人警官に首を押さえつけられて死亡した。黒人というだけで基本的な人権が無視されている点が、この事件の本質だ。
「ブラック・ライブズ・マター、黒人の命は大切」の頭文字を取った抗議運動は、#BLMとハッシュタグがついて、全米50州すべての、都会だけでなく小さな自治体も含む1000を超える市町村へと広まっていった。
それまで2カ月以上おとなしく家に引き籠っていたニューヨーカーも、この事件をきっかけに豹変する。コロナ禍で鬱積していたストレスを一気に吐き出すかのように、人々は街へ出て、人種差別や警官による不当な暴力に対して怒りを爆発させた。
事件から5日後、久しぶりにマンハッタンの友人宅で食事していた時のこと。外から突然パトカーのサイレン音に交じった騒音が聞こえたので、窓際へ駆け寄ると、抗議をするデモ隊に、警察官が集団でゆっくり歩み寄っていくのが見えた。警官もデモ隊も、マスクをしていない人が大勢いて、ソーシャルディスタンスなんて完全に無視だ。パトカー数台が道にズラリと横並びになってデモ隊を遮っている。すると、デモ隊の一人が警官に飛びかかったのをきっかけに人の塊が崩れ、警官とデモ隊が乱闘に近い状態になった。
翌日から、ニューヨークの街はカオスに包まれる。店のショーウインドウは割られ、パトカーに火が放たれ、暴行や略奪が相次いだ。デモ隊を装った白人至上主義者たちが、裏で煽動して州外から人を送り込み、暴力沙汰を起こしているというニュースも流れた。コロナ禍で疲弊しているニューヨークに、これでもか、これでもか、と試練が襲いかかってくる。
警官や白人至上主義者の自警行動による黒人への暴行や殺害は、各地で繰り返されてきたが、トランプ大統領の登場によって、その激しさは一層増していた。
ひとつの大きなきっかけになったのは、2017年8月バージニア州シャーロッツビルで起きた事件。KKK(クー・クラックス・クラン)などの白人至上主義団体が、南北戦争で奴隷制の維持を唱えた南軍の司令官、ロバート・E・リー将軍の銅像撤去に反対して、シャーロッツビルに集まった。彼らに対抗する人種差別反対のグループも現れ、衝突して一人の死者を出した。
衝撃的だったのは、事件のニュースを聞いたトランプ大統領が、白人至上主義者やネオナチに対する批判を躊躇したことだ。トランプ大統領のお墨付きを得て、今まで水面下にいた白人至上主義者たちが、日のあたるところに堂々と出てきて活動するようになった。この時点で、警報サインはすでに出ていたわけだ。トランプの容認態度と極右の活動を、この時に厳しく戒めていれば、議事堂占拠という暴挙には至らなかったのではないか、という分析もある。
アメリカは、1960年代の公民権運動を経て、2000年代には黒人のオバマ大統領が選出され、確実に進歩しているように見えた。しかし実際には、奴隷制度から続く人種差別問題は、未だ深く社会に根を下ろしたままであることが、ジョージ・フロイド事件で白日の下にさらされたのだった。
アメリカを変えるZ世代
#BLM抗議デモに私も何度か参加してみてわかったのは、中心にいるのが1981年以降に生まれたミレニアル世代と、それに続く1990年代後半以降に生まれたZ世代だったことだ。あらゆる人種が参加しており、むしろ黒人は少数だったのは新鮮な驚きだった。