トマトを食べたら本当に痩せられるのか?
体重を減らすための情報、すなわち減量情報がちまたにあふれています。つい最近も「トマト」が話題となり、「トマトを食べると痩せる」と期待した人はいませんか?“トマト騒動”の発端は、京都大学の2012年2月10日のニュースリリース、「トマトから脂肪肝、血中中性脂肪改善に有効な健康成分を発見:効果を肥満マウスで確認」でした。この情報は、レベルの高い学術雑誌「PLoS ONE」に掲載された論文を紹介したものですが、研究で使われたのは成長すると必ず糖尿病を発症する特別なマウスです。そのマウスに、加熱トマトに含まれる「13-oxo-ODA」と略称される物質を合成し添加した餌を、4週間食べさせて得られた結果でした。
「太めのマウスにトマトを食べさせたら中性脂肪が減った」わけではありません。重大な代謝異常を有する動物での実験結果であることが、ニュースではきちんとは伝わらず、「トマトを食べるとメタボ解消」かのようなお手軽話になってしまったようです。
繰り返されてきた「痩せる食べ物」騒動
さかのぼると、2008年9月には「朝、バナナを食べると痩せる」とのことでバナナが、また07年1月には「よくかき混ぜた納豆を朝飯・夕飯それぞれ1パックずつ食べると痩せる」で納豆が、そして05年夏には「寒天を食べると痩せる」で寒天が、それぞれ大評判となり、全国各地で品切れ騒動が起きました。過大評価と信奉の3つのパターン
このような現象がフードファディズム(Food Faddism)です。フードファディズムは「食べものや栄養が健康や病気へ与える影響を過大に評価したり信奉すること」と定義されます。それにはおよそ3つのタイプがあります。1つ目は、先ほど述べた寒天やバナナのように、実際にはあり得ない健康効果を期待して食品が大流行、すなわち爆発的に売れることです。紅茶キノコやココアもありました。
2つ目に、量の無視という問題があります。その食品に含まれる「有益・有害成分」の量には言及せず、「○○に良い」「××に悪い」と主張することです。「これを食べると△△に良い」というマスメディア情報や、「健康食品」産業界からの情報の多くが該当します。同時に、食品中にごく微量存在する有害物質に関して、有害性を発揮するだけの量を摂取することはあり得ないにもかかわらず、健康への悪影響があるかのように言い募る情報もあります。
3つ目は、食品に対する期待や不安の扇動です。食生活の全体像を見ず、ある食品を体に悪いと決めつけたり、別な食品を体に良いと推奨・万能薬視することです。通常の食事は良くないとし、特殊な食事法を推奨することもここに属します。「自然・天然」「植物性」は良い、「人工」「動物性」は悪い、とする傾向もあります。
減量情報と深く関係するフードファデズム
さて、減量情報にはフードファディズムが多々紛れ込んでいます。言うまでもないことですが、体重を減らすには消費するエネルギーを摂取するエネルギーよりも多くし、その状態を長期間続けることです。時間をかけてゆっくりと減らし、減らした体重をずっと維持してこそ「減量成功」なのです。そのためには、食生活を含めた生活習慣全般を見直し改善する必要があります。事実はこれだけですが、これを無視するかのような減量情報が次々と登場し、人々を誘惑します。「痩せられる」と主張する3つのタイプ
「運動なしですぐ痩せる」という減量情報などの「痩せられる理由」は、だいたい3タイプに分類できます。それぞれに問題点があります。1つ目は、摂取エネルギーを極端に減らすことです。「食べる量を減らして痩せる」という単純な論で、空腹感をいかに紛らわせるかによって様々な方法、例えば「水飲みダイエット」「コンニャクダイエット」「寒天ダイエット」等々、が“編み出されて”きました。食事量を極端に減らし、エネルギーの摂取と消費の収支をマイナスにすれば当然痩せます。だから、これはフードファディズムではありませんが、不健康きわまりない方法です。
2つ目は、消化・吸収の妨害です。消化・吸収を妨害する物質を含むので「それ」と一緒に食事をすると栄養成分が吸収されない、だから食べなかったのと同じことになる、との論です。06年5月には白インゲン豆に含まれるでんぷん分解酵素妨害物質に着目した減量法がテレビ番組で紹介されましたが、豆に含まれる他の有害物質が無害化されなかったために、効果どころか下痢・嘔吐(おうと)症状を呈する人をたくさん生じさせてしまいました。
3つ目は、体のエネルギー代謝を高めるというものです。エネルギー代謝を促進させる物質を含むので、じっとしていてもエネルギー消費量が多くなり、食事制限なしに痩せる、とのこと。確かに、例えば唐辛子に含まれる辛味成分カプサイシンが、エネルギー代謝を高めることは多くの研究で確認されていますが、目に見えるほどの減量効果を得るには、大量のカプサイシンを継続的に摂取する必要があり、そうすると体の別なところに悪影響が出てくる心配があります。
お手軽なダイエットはあるのか?
あふれるほどの食べものに囲まれ、体を動かす機会の少ないのが現代の生活です。過剰な体脂肪を減らし、適正な体重を維持するには、大なり小なりの努力が必要です。不足しがちな身体活動量を少し多くすること、過剰になりがちの食物摂取量を控え目に保つこと、この2点です。とはいえ、言うは易く行うは難し、であるところにフードファディズムが忍び込み、「それ」さえ食べればすぐ痩せられると期待させる方法や製品に、つい手が出てしまうのでしょう。でも、「飲んで眠ればたちまち痩せる」という減量製品がもし実在するのなら、アメリカの深刻な肥満問題は解決しているはずです。現時点の事実は「がまんしないで、食べたいものを、好きに食べても、痩せられる」ものはない、です。甘い文言に心が動かされそうになるとき、フードファディズムという言葉を思い出してください。減量情報の落とし穴に落ちなくてすむかもしれません。