エネルギー確保の最後のとりで
昨今、地球温暖化をはじめとした異常気象や、石油価格の高騰により、環境・エネルギー問題が注目されている。太陽光発電は、発電時にCO2などの温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギー源であり、次世代のエネルギーとして期待を担っている。世界全体の温室効果ガス排出量を、2050年までに現状の半分にするという「クールアース50」の目標達成のためにも、太陽光発電は欠かせない。現在、太陽電池の生産量は毎年40~50%も増加しており、07年度の世界の生産量は、発電量に換算して3.7 GW(37億ワット)を超えた。この発電量は、ピークエネルギーで原子力発電所約4基分に迫る勢いである。太陽光から電気を得るには
地上に降り注ぐ太陽光のエネルギー密度は、快晴であれば、1m2当たり1kWにもなる。この太陽光を電気的なエネルギーに変換するためには、電子素子に欠かせない半導体を用いる。半導体には、マイナスの自由電荷を多く含むタイプと、プラスの自由電荷を多く含むタイプとがあり、この両者を張り合わせた境界面に光が照射されると、光エネルギーが自由電荷を生成し、電気エネルギーを発生させる。これが太陽電池の動作の基本であるが、光のエネルギーを電気エネルギーに変換する効率や、さまざまなコストの問題など課題も多く、研究開発が進んでいる。コストの概念を整理する
「太陽電池を製造するのに必要なエネルギーを、太陽電池の発電によって生み出す」のに必要な時間を、エネルギーペイバックタイム(EPT)と呼ぶ。太陽電池にもいろいろあるが、結晶シリコンを用いた太陽電池のEPTは2年程度、薄膜シリコンを用いたものでは1年強、化合物系の薄膜を用いたものでは1年弱となる。これらの寿命は一般的には20年程度なので、いずれも、環境効果が高いことがわかる。だが、太陽電池の最大の課題は、発電コストである。現在の太陽光発電のコストは46円/kWh(1000Wの電力を1時間使って46円)で、日常使用している電力の23円/kWhに比べて大幅に高価である。太陽光発電の発電コストを決める要因は、(1)発電効率、(2) 製造コスト、(3) 寿命の三つであり、このコストを汎用電力並みに低減させるには、これらすべての改善が必要となる。
発電の効率を上げるために
現在の太陽電池の発電効率は、結晶シリコンを用いた場合では、研究レベルで24.7%、商業レベルでも22.3%に達しているが、理論限界効率の27~28%に近づきつつある。大幅な変換効率の向上には、太陽光の異なる波長範囲を分担して受け持つ太陽電池を組み合わせた多接合化、すなわち、通常の太陽電池を通り抜けてしまう赤外線などに対応した太陽電池を下に重ねるタンデム型太陽電池や、対応する波長領域をさらに分けて、3層ないし4層の発電層を重ねるものが開発されている。あるいは、シリコンに代わる新規材料の開発も進んでいる。日本では08年度から、このような取り組みを行う国際研究拠点を形成する「革新型太陽電池国際研究拠点整備事業」が始まったところであり、50年に発電効率40%を実現するための基礎的な技術開発を行っている。例えば、ナノサイズの半導体の中に電子を閉じ込めた状態、すなわち量子ドットを使うものもある。太陽電池を形成する2種の半導体内に量子ドットを並べると、元の半導体が吸収できなかった光を吸収して、より広い範囲の波長の光に対応し、効率的な変換を行えるようになるのだ。そのため、従来の太陽電池の理論限界効率を大幅に超える発電効率を目指せるようになる。
製造に関しても、例えば、薄膜シリコンを5m2以上の大面積に堆積したり、従来よりも10倍近くも高速に堆積するなど、様々な手法が開発されている。結晶シリコンに関しては、シリコンインゴット(塊)の安価な製造法や、電極の先端にプラズマを発生させてインゴットから無駄なくウエハー(薄い基板)をスライスする方法が研究されている。
シリコン以外にも、銅-インジウム-ガリウム-セレンなどの化合物半導体を用いた薄膜太陽電池が開発されている。さらに、原料コストの安い有機系材料を素材に用いて、真空装置を使わずに、これを塗布などの方法で安価に製造し、半導体にする方法も検討されている。
長寿命化なくして実用化の道はない
太陽電池の寿命を決める要因は、太陽電池を並べてパネル状にしたモジュールの部材や構造である。太陽電池が設置される環境によっては、太陽電池を封止するための接着剤の変色や、太陽電池と接着剤の間の剥離(はくり)などが起きる可能性がある。太陽電池の普及拡大にともない、これまで想定されていなかったような場所にも設置されることが予想されるのだ。砂嵐や酸性雨、潮風のみならず、家畜小屋などの上に設置された場合には、糞尿による影響も懸念される。モジュールに用いる接着剤の材質改善が図られるとともに、プラスチックフィルムから成るバックシートを使用せずに、2枚のガラスを張り合わせたモジュールなども検討されている。これら高効率、製造コスト、長寿命の三つを統合することで、太陽光発電の大幅なコストの低減が可能になる。ドイツやスペインでは、太陽電池で発電した電力を高値で買い取るフィードインタリフ制度の恩恵で、10MW(100万ワット)を超える大規模太陽光発電所が建設されている。日本でも、住宅への太陽光発電設置に対する政府の補助金が復活する見込みである。地球環境を守ると同時に、電気のある便利な暮らしを世界中の人々が享受でき、さらに次の世代が受け継ぐことができるようにするためにも、地球上に偏ることなく降り注ぐ太陽光を有効に活用できる太陽電池は、21世紀のエネルギーとして、その役割がますます大きくなる。