電力不足は原発が動いていないため?
近年、これほど節電がクローズアップされた年はなかった。2011年の夏、東京電力と東北電力管内では第一次石油ショック以来、37年ぶりとなる電力使用制限令が発動された。企業など大口需要家には対前年比15%の使用電力削減が義務づけられ、一般家庭でも節電が行われている。他の電力圏でも自主的な節電への取り組みが要請された。節電意識の高まり自体は歓迎すべきことだ。しかし、なぜ節電が必要なのかについては正確に理解しておく必要がある。原発が動かせないから節電、という政府や電力会社のロジックに乗せられてはいけない。
そもそも、電力会社がそれぞれ発表している電力需給情報をうのみにしてもよいのか疑問がある。ここでは、公開されている資料をもとに、東京電力、中部電力、関西電力がどれだけの発電設備を持っているのかを検証し、電力不足の本当の理由を考えてみる。
発電設備容量は足りている
電力各社が持っている発電設備は、資料から正確に把握できる。各電力事業者から経済産業省に報告された数字が、経済産業省資源エネルギー庁・ガス事業部編「平成22年度電源開発の概要」(2011年、奥村出版)に載っている。図表1はその中の「平成21年度末電気事業者の発電設備」から、東京電力、中部電力、関西電力のそれぞれについて、電源の種類別に設備容量を抜き出したものである。原子力については、11年7月現在稼働しているものだけを積み上げた。
「電源開発・揚水」とあるのは、全国67カ所に1699万キロワットもの発電設備を擁し、各電力会社に電気を売っている「卸電力事業者」の電源開発(J-POWER)が持つ揚水発電のこと。揚水発電とは、電力需要が少ない夜間のうちに水をくみ上げておき、日中の電力需要がピークのときに水を流して発電する設備である。「卸電力事業者・火力」とあるのは、電源開発や一般企業(卸供給事業者)が電力の販売目的で所持する火力発電設備のことだ。各電力会社単独の設備だけでなく、こうした卸電力事業者等の電力も発電設備容量にカウントして差し支えない。
この結果から、いずれの電力会社も、設備容量的には今年度の最大電力需要予測を上回っていることがわかる。現有設備を最大限活用すれば、5%を確保する必要があるという予備率(〈発電設備容量-最大電力需要予測〉/発電設備容量×100で計算)も軒並み10%を超えているので、節電の必要もない計算だ。
原発維持のための“世論操作”
では、なぜ政府や電力会社は電力不足だと言うのか。それは、「発電設備容量」と「電力供給力」の違いにある。火力発電が中心なので火力について説明すると、燃料の調達量で供給力は左右される。電力会社の立場からすれば、今年度の電力供給計画は昨年度中に作られており、当然原発の稼働を織り込んだ計画だったはずだ。それが原発を使えなくなり、計画よりもたくさんの燃料を投入しないと必要な供給力を確保できなくなった。計画外の燃料を大量に調達するのは手間もコストもかかるのは想像に難くない。
したがって、いま電力会社の言う電力供給力の不足とは、基本的に燃料調達の不足のことである。絶対的な設備容量は足りている。すなわち、燃料が確保できるなら、原発を動かさなくても電力供給力は確保できることになる。実際、図表1から原発分の設備容量を差し引いても予備率がマイナスになることはない。東電は予備率が3.8%となり、5%を割り込んでしまうので節電の必要があるが、それも調整できる範囲内だと思われる。
こうしたことを正直に言わないのは、原発維持のための“世論操作”と言われても仕方ないのではないだろうか。大阪府の橋下徹知事が「原発必要論に持っていくための脅し」と捉えるのも止むを得ない。
電力会社は説明責任を果たせ
電力会社は、発電設備容量に電力供給力が届かない根拠を丁寧に説明すべきであろう。特に、卸電力事業者、卸供給事業者との契約状況がどうなっているのか、あとどれくらい買えるのかを開示すべきだ。実際は、そこをうやむやにしたまま「何万キロワット足りません」と大づかみの数字を示して節電を押しつけている。3月に東電管内で実施された計画停電は大きなインパクトがあった。あのような社会的混乱を避けるためにも節電が必要だというのは、一見説得力がある。しかし、実際は設備容量的には足りているのであり、原発を再稼働することだけが電力供給力確保の唯一の選択肢ではないはずだ。
また、消費者が節電すれば電力会社は余分な燃料を調達せずに済むわけだから、経営的に助かるという思惑もあるだろう。それをあたかも日本経済や国民生活のためのように振る舞うのは、民間企業の態度として不誠実である。
政府の責任も大きい。国は本来、電力会社に情報を開示するようしっかり指導すべきであるにもかかわらず、電力会社と一緒に節電キャンペーンを張っているからだ。
“原発に頼らない夏”から見えたこと
今年の夏は日本のエネルギー政策にとって歴史的なものとなった。各企業、一般市民の節電努力はあったが、大半の原発が停止していたにもかかわらず、大停電は一度も発生しなかった。したがって、停止中の原発はもう動かす必要はないことになる。特に、中部電力では浜岡原発が停止しているため管内に稼働中の原発は一つもないが、まったく電力需給に問題はない。来年の5月までには現在稼働中の原発もすべて定期点検に入るため、今後再稼働する原発がなければ、日本は自動的に脱原発が実現する。設備容量的には足りているのだから、来年度は原発の停止を見越した燃料調達計画を立てればよい。
なお、これに伴う燃料費の増加は国全体で3兆円と言われており、電気料金の値上げは避けられない。ただし、原発の再稼働がとん挫している現状は、電力会社の経営の失敗でもある。ならば安易な電気料金の値上げは避け、少なくとも最大限の経営努力と情報開示を進めて、その上で負担をお願いするのが筋だろう。
また、原発が停止した穴は当面、火力発電で埋めるほかないが、化石燃料の使用量が増加すれば二酸化炭素の排出量も増加してしまう。したがって、これからも節電は大いに行うべきである。それと同時に、再生可能エネルギー(自然エネルギー)へのシフトも本格的に考えていかなくてはならないだろう。