このところカードを使った新しいサービスが次々に登場している。この媒体となっているのが「ICカード」。従来の磁気カードにはなかった様々な機能により、我々の生活をより便利にIT化する試みが活発化している。
生活にとけ込むICカード
ICカードは我々の日常生活で幅広く使われるようになってきた。Suica、PASMO(パスモ)に代表される交通チケットのほかに、Edy、nanaco(ナナコ)などの電子マネー、ANAカードやTSUTAYAカードなどのポイントカード、さらに社員証にも使われている。パスポートや運転免許証もIC化が義務付けられた上、携帯電話の中にも入っている。ICカードは、我々の日常生活に身近なものになってきた。そこで、ICカードとは何か、ICカードで何が実現できるのか、どんなサービスが期待されているのか、さらに海外での普及状況はどうなっているのかを見てみたい。
ICカードとは?
ICカード最大の特徴は、カード自体に情報処理機能がついている点である。ICカードには、人さし指の先程度の大きさのマイクロチップが埋め込まれており、パソコンと同様にOS(基本ソフト)も、CPU(中央演算処理装置)も、データ蓄積機能もある。いわば「超小型のコンピューター」で、海外では「smart card(賢いカード)」とも呼ばれている。ICカードにはカードリーダーにカードを入れて読み込むタイプの接触型と、リーダーにかざして使う非接触型があり、それぞれ用途により使い分けられている()。
ICカードの機能とメリット
ICカードはどんなところに利用されているのか。整理してみると、たとえばキャッシュカードやクレジットカード、ETC(自動料金収受システム)や鉄道・バスの乗車券、電子マネーやポイントカード、社員証、運転免許証など、幅広い分野で利用され、我々の生活に大変なじみ深いものになってきているのがわかる()。それではICカードはどんな機能が優れているのか。
CPU付きのICカードと、従来の磁気カードを比べると、データの記録にICチップを使うICカードはメモリー容量が大きく、また、演算機能を持っている。そこで、ICカードを導入するメリットとしてまず挙げられるのが、セキュリティーの高さである。磁気カードと比べて、カード内データの不正取得や改ざんが非常に困難なため、安全性を求められる銀行カードやクレジットカードのニーズが高い。
次に挙げられるのが、認証、識別機能である。ICチップ内に個人情報を書き込むことで、本人の認証を行うことができるため、社員証などの入退出を管理するIDとして幅広く活用されている。
さらに、磁気カードとは異なり、ICカードはデータが保存でき、さらにデータ書き換えが可能である。この機能を利用して、交通機関の定期券や電子マネーのバリューをカードへ書き込み利用できる()。
さらに「スマート」なサービスへ
ICカードが注目されるもう一つの理由は「多機能さ」である。ICカードは小さなコンピューターであり、複数のアプリケーションを実行することができる。つまり、カード1枚で社員証も、銀行カードも、電子マネーも利用できる。1枚のカードに乗っている複数のプログラムを同時に使うこともできる。例えば、電子マネーとメンバー向けポイントプログラムの双方が入っているカードを店舗で利用すれば、端末に1回かざすだけで、支払いとポイント蓄積の両方が同時にできる。さらに、自動で会員向け割引サービスを適用して、そのカードを使えば自動的に割引を受けることも可能になる。ICカードは今や、顧客囲い込みのための新たなマーケティングツールとして、注目度が高い。
そして、もう1点注目すべきなのが、携帯電話との連動である。携帯電話をICカードのリーダー&ライターとして利用することで、ユーザーの利便性が格段に向上する。携帯電話でインターネットに接続してチケットを購入すれば、駅で長い列に並ぶ必要もなくなる一方、鉄道側ではチケットを販売する人件費の大幅な削減が見込める。ICカードは、新たなビジネススタイルを創造する大きな可能性を秘めている。
世界の状況と日本市場
・早くから普及するヨーロッパICカードの起源はフランスにある。1990年ごろに磁気カードの偽造が相次ぎ社会問題化した。これを懸念した政府が、銀行カードやクレジットカードに対してICカードを義務付けたところ、いち早く広範に普及する結果となった。現在でも主要ICカードメーカーの多くはフランスに拠点を持つ。フランスを中心とした西欧では、ICカードがもっとも普及している地域となっている。
・普及が頭打ちのアメリカ
ヨーロッパでの普及は盛んな一方、アメリカでのICカード普及は比較的遅れている。保険ビジネスの進んだアメリカでは、POS端末やカードをすべて取り換えるコストを工面するよりは、偽造による被害に対する保険に入った方が手っ取り早い、と考える側面もあるようだ。
・世界から注目される日本
日本での普及は加速する一方である。この要因となるのは、個人情報保護法の施行やクレジットカードの偽造被害急増で、セキュリティーを重視したICカードがカードの主流となりつつある。
日本で最近、普及が加速しているのが、「FeliCa(フェリカ)」というソニーが開発した技術をベースとする、電子マネーなどの決済サービスだ。FeliCaは世界標準としての地位は得られなかったものの、日本やアジア地域を中心に着実に普及してきた。特に大都市をほぼ網羅するICカードチケットシステムや、携帯電話でチケット購入してそのまま入場できる刷新的なサービスは、日本が最も先進しているといっても過言ではない。世界のICカード業界が日本市場の動向に注目している。(次回に続く)