水道料金に10倍の格差!
同じ公共料金でも、電気料金やガス料金の地域差は小さい。さらに、例えば同じ東京電力管内ならば、市町村が違っても電気料金はまったく同じだ。ところが、水道は市町村ごとの経営が原則で、独立採算制が基本。だから、地域ごとに料金が異なる。家事用20m3の水道料金(2006年4月1日現在、日本水道協会調べ)を比較すると、最も安い山梨県富士河口湖町の700円に対し、最も高い北海道池田町は6121円。10倍近い格差がある。ちなみに東京都は2309円、大阪市は2016円、全国平均は3056円だ。
では、水道料金はどう決まるか。簡単に言えば、水を確保する費用、浄水費用、運搬費用の合計を、利用者数(給水人口)で割る。富士河口湖町など、料金が安い市町村は、近辺に良質の湧き水、地下水(井戸水)、河川表層水などの水源があり、各家庭に安く配水できる地の利に恵まれた地域。もともと水質が良いため、水質改善のための大掛かりな浄水施設も不要だ。
一方で、水源が遠く、水質が悪いために水質改善費用がかかる市町村で、人口も少ないとなると水道料金は高くなる。一番高い北海道池田町は、近隣市町村と広域水道企業団を組んでいるが、良質な水源が遠く、広い農村部まで施設を延長した負担分がかかるうえ、人口がどんどん減っているため、水道料金が高くなる。
給水人口別に見ると、給水人口が100万人以上の、東京23区や政令指定都市などの平均料金2604円に対し、5000人未満の水道事業の平均は3524円。つまり、人口と料金とはほぼ反比例の関係となっていることがわかる()。
水道料金、値上げのカラクリ
2000年以降、各市町村や広域企業団など、全国約1900の水道事業者のうちの2割が料金を引き上げた。主な上昇の要因は四つ。一つ目は、水質を維持するための設備投資が増加したこと。汚染が進み、従来の浄水処理法ではにおいや化学物質を取り除けないケースが増えたり、一般的な浄水場で行われている塩素消毒では死滅しない、クリプトスポリジウムなどの原虫対策のために、新しい浄水システムへの切り替えが行われると、そのコストが水道料金に乗る。
二つ目に、地下水ビジネスも見逃せない。地下水ビジネスは、地下水をくみ上げ、ろ過した水を利用者へ供給するまでの設備投資を供給業者が負担し、利用者は使った水の料金のみを負担する仕組みだ。ホテル、病院などの大口利用者は、独自に井戸を掘って地下水を利用することで大幅なコスト削減になる。しかし、市町村などの公営水道事業者にとっては、無視できない減収になり、それが水道料金の値上げにつながる。
三つ目は、巨大ダム建設のツケだ。各市町村や広域企業団などの水道事業者が、ダムの水を県などから購入する費用を「受水費」というが、水道事業に占める受水費が増えると、料金引き上げの原因になる()。例えば、福島市の水道料金は05年4月から値上げされ、平均的な一般家庭(月使用17m3)で月当たり16.2%アップし、3364円になった。その理由が受水費で、市北部の摺上川ダムの給水開始に伴う料金改定だ。摺上川ダムは総工費1955億円、総貯水量1億5300万m3で、「東北地方最後の大規模ダム」と言われている。しかし、当初見通した水需要には程遠く、期待された工業用水の需要も、企業誘致の伸び悩みから停滞。想定していた料金では、水道事業を支えられなくなったのだ。
四つ目が人口の減少だ。今後日本では人口が都市部に集中し、過疎化が急激に進むと予測される。過疎地域では、需要者が少ないために高額の水道料金を支払わなくてはならなくなる。
高いほどまずい水道水?
次に水質の格差である。東京の水が、以前に比べておいしくなっている。東京都は高度浄水処理を導入した。高度浄水処理は、通常の浄水処理では十分に対応できない、かび臭原因物質、トリハロメタンのもととなる物質、カルキ臭のもととなる物質などを、オゾンや生物活性炭などで処理する。ただし、その費用は莫大で、人口が多く、財源豊富な都市でのみ導入が可能だ。高度浄水処理が導入されているのは、東京、大阪などの大都市に限られている。一般的な浄水場では、「急速ろ過」と「緩速ろ過」という二つのろ過技術が採用されている。厚生労働省によると、全国の浄水施設の77%が急速ろ過で、緩速ろ過は4%だ。
急速ろ過は、薬品によって水を浄化する。「薬品ろ過」と言ってよいだろう。浄水場に入った汚れた水に薬品を入れて汚れを沈め、上澄みをジャリや砂でろ過する。
緩速ろ過は、生物の力を使って水を浄化する。「生物ろ過」と言ってよいだろう。ろ過池(水をきれいにするために水をためるプールのような場所)に発生した藻が光合成で酸素を作り、それにより誕生した微生物が、水中のゴミや細菌を分解する。
戦前の日本では、緩速ろ過の浄水場が多く建設されていたが、戦後、進駐軍が塩素消毒を強制したのをきっかけに、アメリカの技術が導入され、高度経済成長期に、インスタントに大量の水をろ過するために急速ろ過が普及した。しかし、緩速ろ過のように、水溶性有機物やアンモニアを除去する能力はない。そこで、塩素による殺菌が行われるが、07年5月、厚生労働省が「水質基準項目に塩素酸を追加し、その基準を『0.6mg/L以下であること』とする」という改正案を出したため、急速ろ過は大きな曲がり角を迎えることになった。また、マンガン、臭気、合成洗剤などは除去できないので、水の味は悪くなる。
費用も緩速ろ過の方が安い。急速ろ過では、薬品代、電気代、メンテナンス代がかかる。機器を定期的に更新する必要もある。このため、急速ろ過を導入した自治体の借金はかさみ、財政を圧迫する要因になっている。現在、地方自治体の財政事情は大変厳しい。既存の浄水施設の維持も厳しくなる。そうなると、過疎地域では高い料金を支払いながら、まずい水を飲むことになるだろう。
注目される緩速ろ過
こうした中、緩速ろ過を復活させる動きがある。財政難の地方自治体に「妙手」と注目され始めたのだ。現在、群馬県高崎市、愛知県名古屋市、岡崎市、広島県三原市、沖縄県石垣市、宮古島市などで、緩速ろ過の浄水場が稼働している。06年には、急速ろ過をあきらめ、緩速ろ過を復活させるという動きも起きた。長野県須坂市の坂田浄水場が復活することになったのである。坂田浄水場は、1926年に開設され、1日の処理能力は3400m3。ところが、市は人口増、水需要増を予測して、急速ろ過方式で1日に9500m3の水が供給できる、塩野浄水場を新設したため、坂田浄水場は使われなくなっていた。だが、人口は伸び悩み、97年の約5万4800人をピークに、浄水場復活の前年である2005年までには、1100人以上減った。1996年に4万2000m3と設定した1日当たりの計画給水量も、2004年には3万2600m3に下方修正された。
塩野浄水場では1年間に、ポンプで水をくみ上げる電気代に700万円、濁りを沈殿させる急速ろ過に使う薬品代に290万円、沈殿した泥の産廃処理に120万円がかかる。さらに定期的なメンテナンス費用もかかる。人口が減少傾向にあり、税収が減っている市にとっては重い負担だ。