前回の水道水の国内格差に続き、今回は、水と食料についての世界の格差を紹介する。
急成長するボトル水市場
ミネラルウオーターなど、ボトル水の生産量が右肩上がりで増えている。1986年から2005年までの20年で約22倍になった。日本ミネラルウォーター協会の調査によると、1986年に8万2179kL(国産8万1000kL、輸入1179kL)だったが、2005年には183万4024kL(国産142万7099kL、輸入40万6925kL)と増加した()。ボトル水市場は、世界的にも急成長している。その背景には、地球レベルの淡水不足、汚染の進行がある。メーカーは、需要に応えるために絶えず新しい水源を探し、世界各地で水利権を買ってはタンカーで輸送する。農村地域に入り込み、井戸を得るために農地を買い上げ、水源が枯渇したらほかに移動する。
企業が支配する世界の水
企業による水源買収が大々的に行われているのは、近い将来、水が莫大なカネを生むと考えられているからだ。2003年、国際連合は、人口増加や水質汚染によって、今世紀半ばには、最多で60カ国の70億人、最少でも48カ国の20億人が水不足に直面するという「世界水発展報告書」を発表した()。世界的な水危機が進行する中、水の価値は高まり、ブルーゴールド(青い黄金)と呼ばれるようになった。企業が水源を掘りあさる姿は、かつてのゴールドラッシュの狂乱ぶりを彷彿(ほうふつ)とさせる。
水不足や汚染が深刻化すれば、水は企業により独占され、商品化された水の値段は上がる。商品である以上、需要と供給のバランスに支配され、需要が多く、供給が少なければ高価格でも売れる。今日200円だった水が、明日も200円だという保証はない。メーカーは、400円、800円と値段を上げることも可能だ。例え価格が高くても、富裕層はますますボトル水を好んで求めるようになり、価格高騰に拍車をかける。
一方、低所得者にとっては水を得ることが大変な負担になる。インドの一部の家庭では、収入の25%を水代が占めるところもある。安全な飲料水は金持ちだけのものになる可能性があり、「水はカネのあるところに向かって流れる」と懸念されるのは、そういうわけだ。
かつて、すべての人類が自由に使える共有財産だった水は、貴重で希少な商品に変貌しつつある。生きていくうえで最低限の必要を満たすために、清潔な水を得ることは、基本的な権利である。
「水赤字国」ニッポン
そうした中、日本は大量の水を輸入している。ボトル水はもちろんだが、食品や工業製品も輸入している。食品や工業製品を作るには水が必要だ。だから、食品や工業製品を輸入することは、間接的に水を輸入していることになる。この水をバーチャルウオーターという。例えば、植物には水をやる。米なら田んぼの水が必要だ。トウモロコシ1kgを作るには2000Lの水が必要。大豆1kgでは3400L、小麦粉1kgでは4500L、米1kgでは5100Lの水が必要だ。肉の場合はもっと水が必要になる。なぜなら、水を使って育てた植物をエサにしているからだ。豚肉1kgで1万L、牛肉1kgで10万Lの水が必要になる。
こうして1年間に日本が輸入しているバーチャルウオーターを計算すると、合計1000億kLになる。日本国内での水資源使用量は850億kLだから、国内で使うよりも多い量の水を海外に頼っていることになる。日本は「水赤字国」だ。
世界の水不足と日本人の食生活
水の最大の使い道は食料生産だ。世界中で水不足が起きているのに、日本ばかりが水を買い集めていいはずがない。日本は世界有数の食料輸入国である。と同時に、世界一の残飯大国でもある。世界規模の食料不足が進行していく中で、いまのように世界中の食べ物を買いあさり、そして食べ残して捨ててしまうことが許されるわけがない。やや古いデータだが、1996年度の厚生省(当時)の食品廃棄物資料によると、食品廃棄物の発生状況は、食品製造業から生ずる産業廃棄物が約340万t、食品流通業、外食産業などから生ずる一般廃棄物が約600万t、一般家庭から生ずる一般廃棄物が約1000万tと、合わせて年間約2000万tになる。
スーパーやコンビニエンスストアの、賞味期限切れとなった商品や、売れ残りなどの残飯を含む「食品流通業、外食産業などから生ずる廃棄物」約600万tは、世界の食料援助総量約740万tの80%に匹敵する量だ。さらに、家庭から排出される食品廃棄物約1000万tは、発展途上国5000万人分の年間食料に匹敵する。
結婚披露宴などの宴会では、食べきれないボリュームが豪華さやぜいたくさの象徴となるためか、当たり前のように食べ残す。家庭でも、「賞味期限切れ」「冷蔵庫に眠ったまま古くなった」「作ったが食べきれない」などの理由で食品が廃棄されることも多い。
水の最大の使い道は食料生産だ。日本人は世界中の水をかき集め、そして無駄にしている。残飯を出さない食生活にモデルチェンジすることが、日本がすぐに取り組まなくてはいけない課題だ。日本人が食料を効率的に使用し、輸入量が減れば、穀物の売価も世界的に下がり、水不足と貧困に悩む途上国の人も食物が買えるようになる。それが世界の水問題を解決する一助となる。
食べものを捨てない。食べ残しをしない。誰にでもできる水問題の解決法である。