全世帯の地デジ対応まであと3年
地上テレビ放送は、2011年7月24日にこれまでのアナログ放送を終了し、完全にデジタル放送(地上デジタル放送、地デジ)に移行する。アナログ放送が終了してしまうと、現在使用されているテレビ等の受信機器では視聴できなくなってしまう。あと2年余りで予定通りにアナログ放送は終了できるのだろうか。低いアナログ放送終了の認知度
総務省の「地上デジタルテレビジョン放送に関する浸透度調査」を見ると、地デジ対応受信機の世帯普及率は、05年の8.5%から、06年15.3%、07年27.8%、そして08年43.7%と着実に上昇している。その一方で、アナログ放送終了についての認知度は08年調査で92.2%であるが、正確な時期についての認知度は64.7%にすぎず、07年調査の60.4%と大差ない。総務省では、08年7月に「地上デジタル放送推進総合対策」を発表し、最終仕上げ段階での対策として、(1)放送番組内で「アナログロゴマーク」や「アナログ放送終了告知スーパー」、「アナログ放送終了のお知らせ画面」を表示し視聴者の意識を高めるよううながすことや、(2)アナログ放送視聴機器に大型シールを添付して誤購入を防ぐこと、(3)地方公共団体・自治体・民生委員などと国が連携して地域レベルでの啓発に努めること、といったように、メーカーや販売店、放送事業者を含めたすべての関係機関による総合的な取り組みの必要性を掲げている。また、09年夏までに5000円以下の簡易チューナーの供給を目指すほか、高齢者世帯や生活保護受給世帯に対しての支援も盛り込んでいる。
無料とはいかない地デジへの移行
地デジの受信には、(a)地デジ対応テレビを買う、(b)使用中のアナログテレビ用に地デジチューナーや地デジチューナー搭載映像機器を買う、(c)ケーブルテレビに加入する、(d)DSLやFTTHといったブロードバンドサービス用多チャンネル映像配信サービスに加入する、などの複数の選択肢がある。だが、どの選択肢が自分に合っているのかを短期間に見極めることは難しく、地デジの視聴方法に関する正確な知識が求められる。また、(a)と(b)では、新たにUHFアンテナを設置する必要があり、(c)と(d)では月々の視聴料がかかるなど、思いのほか費用もかかってしまう。テレビや新聞、雑誌、インターネットといったメディアを通じて、デジタル放送への完全移行やアナログ放送の終了時期についての認知度を高めることは可能だが、こうした啓発が、地デジの受信形態や費用についての理解を深め、必要な機器の購入につながるとは限らない。特に、地方の難視聴地域や高齢者世帯では、対象となる地域や世帯が分散していたり、ITがなじみづらい生活スタイルだったり、という状況が見られるため、地デジ化はすんなりとは進まないだろう。とりわけ、これまでNHKの受信料以外無料で済んできたテレビの視聴が、視聴形態によっては完全に有料になることから、生活保護受給世帯などの経済的に余裕のない世帯では、機器・サービスを導入できず視聴できなくなってしまう。
対応機器普及が間に合わない!?
現在テレビの全保有台数は1億台を超え、1世帯当たり2台以上が普及している。地デジの世帯普及率は43.7%であるが、地デジ対応テレビの累計出荷台数は08年7月時点で2371万台(JEITA調べ)にすぎず、これまでで最も多く地デジ対応テレビを出荷した07年でも年間出荷台数は808万台(同上)にとどまっている。また、チューナーの累計出荷台数は08年7月時点で50万台、07年の年間出荷台数は12万台(いずれもJEITA調べ)にすぎない。さらに、実際に地デジを視聴できるようにするためには、こうした機器を設置するための人的サービスも必要になる。09年夏までに簡易チューナーが登場するとしても、大幅な供給能力アップがなければ、11年までに、全世帯に普及しているテレビをすべて地デジ対応することは、極めて難しい。また、仮に地デジの世帯普及率が100%に達しても、すべてのテレビが地デジ対応になるためにはさらに時間がかかるため、アナログ放送の終了を予定通りに行うことの意義が問われることにもなる。
視聴者サイドの終了シナリオが必要
03年の地上デジタル放送の開始以降開催された、オリンピックやサッカーワールドカップといった大規模なイベントの地デジ化への貢献度については評価が分かれている。現状を見る限り、今後、こうしたイベントをきっかけに地デジ化が一気に進むといったような過度の期待は寄せられない。欧米諸国でも、日本とほぼ同時期にデジタル放送への完全移行を目指しているが、日本とは異なり、アナログ放送の終了には明確な時期を設定せずに柔軟に対応している。
今後アナログ放送からデジタル放送への完全移行を推進するためには、「2011年7月24日にアナログ放送終了ありき」ではなく、視聴者サイドでの地デジ対応のスピードを段階的に評価しながらアナログ放送を終了するというシナリオを改めて策定する必要が生じるだろう。