中国、台湾、韓国の躍進を実感
14年6月、私が英語学習カリキュラムを全て考案した「サウスピーク」は6階建てのビルに移転しました。これによって語学学校を開設した目的に、また一歩近づいた気がしています。大学で国際経営学を専攻していた私は、05年に卒業後、製造業の会社に就職しました。入社と前後して、その会社の売り上げの販売比率が国内と海外で逆転し、海外での売り上げの方が多くなりました。日本には研究開発の拠点のみが残り、製造拠点はなくなる。代わりの製造拠点としてアジア地域、特に当時は中国、台湾、韓国での製造業が目覚ましく伸びているのを実感しました。
会社勤務を通じて、これから海外と仕事をしていく上では英語が不可欠と考えました。そこで、大学時代から希望していたアメリカへの留学を20代最後の年に決断しました。留学先はニューヨークで、現地のNPO法人で働きながら学ぶインターンシップ留学を選択しました。その後、7カ月の留学生活でTOEIC試験は900点を突破し、またその点数にふさわしい話す力、書く力を身につけることができました。
帰国後、留学生活をまとめたブログが話題となり、書籍化されました。ただこの書籍化が逆に仇(あだ)となり、一般企業での就職活動では敬遠されました。いま自分が人を雇う側になってみて分かったのは、たとえ優秀でも企業が求める能力から逸脱している場合は評価の対象にならないということです。当時、自分はソーシャルメディアを駆使したマーケティング能力があると自負していましたが、この能力は新しくかつ特殊すぎて、当時、そしてきっと今でも日本の大企業ではなかなか理解されない、評価されないでしょう。
起業のきっかけ
その後、日本とセブ島をSkype(スカイプ)でつなぎ、英会話のマンツーマンレッスンを提供するオンライン英会話企業で、マーケティング担当として働くことになりました。業務の傍ら、併設の現地の語学学校での学習カリキュラムの作成にもかかわりました。当時すでに、フィリピンには韓国人が作った英語の語学学校が多数あり、ある留学エージェントのサイトには、年間10万人を超える韓国人学生が留学をしていると書いてありました。そして、その流れに追随した日本人向けの語学学校もポツポツと出始めていたころです。私がかかわった学校はその中の一つでした。
ただし、私が見た範囲内では日本人向けの学校はレベルが低かったです。フィリピン人講師の採用基準が不明確で不適切、まともなレッスンマニュアルは存在せず、学習カリキュラムの方針すらない。さらに使用している英語教材はフィリピンで入手できるコピー海賊本ばかり、と惨憺(さんたん)たる状況でした。
これなら自分がやった方がずっとうまくできると思い、前述の問題点を全て解決するようにしました。まず、講師の採用基準の明確化です。 TOEIC900点以上で、かつ発音が明瞭なフィリピン人講師のみを採用しました。また、教員免許保持者や言語学専攻者を優先しました。
次に、3カ月間でTOEICの点数を200点アップでき、それにふさわしい英会話能力、英作文能力も身につく学習カリキュラム方針とレッスンマニュアルを作成しました。 そして、海賊版は一切使用せず、日本の書店で購入した日本人にとって最適な英語参考書のみを使用するようにしました。
こうして、当たり前のことを、当たり前に行う語学学校「サウスピーク」がスタートしたのです。
アジアでの起業のメリットとデメリット
アジアで起業すること、働くことのメリットは何より物価が安いことです。たとえばフィリピンで正規の学校を作るには、先にまず教室を確保してから申請しなければなりません。申請がおりるまでには一定の期間がかかり、その間は無収入ですから、日本のような物価ではとても自己資金では賄えなかったでしょう。また英語学校に特化して言うと、きちんとした採用基準があれば、優秀な講師を日本ではあり得ないくらいに安い人件費で確保できることです。日本でTOEIC900点以上の英語講師を採用するとなると、年間最低でも約300万円かかります。しかしフィリピンなら、年間50万円を切る金額で雇用することができます。
それから、「全てが未整備なこと」もあげたいです。
アジア旅行をした人の中には、経験者がいると思いますが、エアコンが利かなかったりシャワーのお湯が出なかったり、虫が大発生するようなホテルもあります。トイレの便座が盗まれるのが日常茶飯事と知ったときには、さすがに驚きましたが、日本の快適さに慣れきった人からしたら、きっと耐え難いレベルで「未整備」です。
先日、日本に一時帰国した際、たまたま、マレーシアでパン屋を始めた日本人が現地採用の従業員とうまくいかない様子をテレビで取り上げているのを見ました。日本と同じ感覚、「仕事は辛いもの。仕事では我慢するもの」という感覚で人を雇ってもうまくいかないでしょう。このような考え方で従業員と接していると彼らはすぐに辞めてしまいます。役所などでも、ファイルの大きさが合わないという理由で、役人に書類を受け付けてもらえないこともあり、人的な部分でも「未整備」と言えます。
こうした一見デメリットと思える様々な「未整備さ」を楽しめる人には、アジアは魅力的かもしれません。
それから、「年長者がほとんどいない」ことも実は大きなメリットです。うるさいことを言う上司がいないので企画や営業も好きにでき、私自身は最大のメリットと感じています。上司のせいで自分の思うことが出来ないと感じている人は、日本を飛び出してみるのもいいでしょう。
ただし、私の知り合いがもし「アジアで働きたい」と言った場合には、基本的に反対します。日本国外で働くということは、国内で働くよりもずっと大変なことであり、また給与・待遇の面も不確定です。アジアで働くよりも日本で働く方がよほど楽です。私だけでなく、「アジアで働きたい」などと言ったら、周りのありとあらゆる人から反対されると思います。それでもチャレンジしたいと言える人、全ての反対を振り切るくらいのガッツがある人であれば、トラブルなども何とか解決できる気もしますので、「どうぞ、頑張ってください」と言います。
英語をツールに人を育てる
サウスピークを開設して1年4カ月が経過し、約350人の生徒が卒業しました。その上で言えるのは、「英語を身につけることは、もはや特別なことではなく、自動車の運転免許を取得するのと同程度の、普通なこと」ということです。これからのビジネスパーソンは、ビジネスの相手が日本語以外の言葉を母語とする人たちだった場合、共通語である英語を使いこなすことは必要条件です。すべての日本人が英語を使いこなす必要性は全くありませんが、せめて日本人の1割は必要条件である英語くらいまともに使いこなせるようになってほしいと考えます。大学生なら、本気で勉強すれば、3カ月でTOEICの点数を200点上げ、その点数にふさわしい英会話力と英作文能力を身につけることが可能です。
サウスピークの卒業生の中には目覚ましい成功例を収めた人もいます。入学時TOEICの点数が250点、つまり中学1年生レベルだった生徒が、7カ月で705点まで上げました。