次に、グローバル・タックスとは呼ばれてはいないが、クリーン開発メカニズム(CDM: Clean Development Mechanism)事業から発生する削減相当量(クレジット)への課金を、気候変動の適応基金(Adaptation Fund)の財源とする「CDM税」がある。CDMとは、先進国と途上国が共同で温室効果ガス削減プロジェクトを途上国において実施し、そこで生じた削減分の一部を先進国が削減相当量=クレジットとして得て、自国の削減に充当できる事業のことをいう。
たとえば、先進国(の企業)が途上国の老朽化した火力発電所を、最新型のものに改修することによって、二酸化炭素が削減できる。その際、その事業から発生する削減相当量をお金に計算し、先進国(の企業)の収入となるのがCDMの基本的な仕組みだ。その収入に対して2%の税をかけ、途上国における気候変動の適応対策(たとえば温暖化による高波や洪水を防ぐために防波堤を造るなど)を支援するための国際機関である適応基金の財源とするのが、CDM税である。
そして、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアを含むEU10カ国も、2011年9月以来、「欧州金融取引税」の議論を進めている。
さらに、日本でも2006年に研究者やNGOが「グローバル・タックス研究会」を開始し、国会議員も2008年に「国際連帯税創設を求める議員連盟」を結成、日本政府も同年、グローバル・タックスを含む革新的な資金創出を検討する「革新的開発資金に関するリーディング・グループ」に加盟した。
また、2009年から2017年までに3回の有識者会議が開催され、「国際連帯税推進協議会」が2010年に、「グローバル連帯税推進協議会」が2015年に、「国際連帯税を導入する場合のあり得べき制度設計等に関する研究会」が 2017年に、いずれも日本政府が航空券連帯税を始めとするグローバル・タックスを導入することを提言している。
そして、ついに2017年12月の政府税制改正大綱で、2019年1月から「国際観光旅客税」の実施が決定した。いわゆる「出国税」で、日本人、外国人を問わず、日本を出国する人に、一律1000円を課税する。年間、日本人が1710万人、外国人が2400万人出国するので、税収はおよそ年間400億円となる。
ただし、この税は大変大きな問題を抱えている。なぜなら、その税収を主として日本の観光産業振興のために使用するとされているからである。これでは、課税面はグローバル・タックスの仕組みを利用しながら、税収は地球規模課題の解決に回らないという、ある意味最悪のシナリオに陥る可能性がある。
地球規模課題の解決に逆行する動きと日本ができること
地球規模課題が深刻化しているにもかかわらず、その解決に必要な資金は桁違いに不足し、「異次元」の国際協力が求められているにもかかわらず、各国はますます自国第一の傾向を示している。
そのような時代だからこそ、これまで実現が難しいと考えられてきた構想や政策に目を向け、真剣に議論し、現実化することが求められている。これらの議論の中心にグローバル・タックスがある。今後さらに活発に議論され、現実化されることを期待する。
そして有識者会議の提言などを経て、ようやく日本初のグローバル・タックスの実現かと思いきや、日本政府が進めようとしている国際観光旅客税は、このままではそうとはならない可能性が強い。すでに本税の骨格はかなり固まっていると思われるので、いまからそれを変更することは容易ではないことを承知の上でなお、その税収の使途の一部を地球規模課題の解決のために充てることを提案したい。
とりわけ、本税実施のタイミングを考えると、まだ可能性はゼロではないはずである。
本税は2019年1月に実施開始予定であるが、同年6月以降には日本で初めて開催されるG20(20カ国・地域首脳会合)がある。日本はその議長国となるが、議長としての「目玉」が求められる。そのとき、日本が国際観光旅客税を実施し、その税収の一部を、たとえばSDGsの重要項目である国際保健に充当すると約束すれば、その国際的なインパクトは大きい。
国際観光旅客税は、もしその税収の一部でも地球公共財に回れば、日本が初めて実施するグローバル・タックスとして歴史的な意味を持つ。したがって、国際観光旅客税にかかわるすべての関係者に対して、これがグローバル・タックスとなるよう最後の議論を望みたい。