(5)再生可能エネルギーは火力に依存?
再生可能エネルギーについては、「火力・揚水等を用いて調整が必要であり、それ単独では脱炭素化を実現することはできない」(第5次基本計画)としている。しかし、これもまた印象操作にほかならない。
再生可能エネルギーがめざましく伸びている諸外国でも、再エネが火力・揚水等に依存しているわけではない。再エネも含めた電力需給を、地域間もしくは国際融通、出力抑制、需要コントロールによる調整を行っている。これらは、決して、「技術革新」が必要なわけではなく、制度改革は必要となるだろうが、今ある技術で十分可能だ。
第5次基本計画では、再生可能エネルギーに関しては、「確実な主力電源化への布石としての取組を早期に進める」としているが、2030年22~24%という目標は据え置いた。しかし、欧州主要各国はすでに再生可能エネルギーは20%以上であり、2020年時点の導入目標は30%以上であることを考えれば、日本の目標設定があまりに低い。再エネの課題をことさら大きく見せかけ、将来の技術革新がなければ克服できないかのような印象操作を行っているのではないかと疑いたくなる。
六つの「不都合な真実」
一方で、エネルギー政策を考える上で、必須だと思われるが、原発維持にとって「不都合な真実」は記載せず、検討対象ともしていない。
(1)世界で進む脱原発の流れ
多くの国々が、原発のコストの高騰、解決不可能な核廃棄物、原発事故のリスクを理由に、脱原発に舵を切った。福島第一原発事故を契機とした脱原発の世論が背景にある。また、再エネへの投資が雇用や技術開発の面で優位性が高いという読みもある。
すでに原発を持っていた台湾、スイス、イタリア、ドイツ、韓国などが脱原発を政策決定した。チリ、ベトナム、シンガポールなどが、原発を導入することを中止。
スウェーデンは原発比率35%という原発大国だが、2040年までに再生可能エネルギーだけで100%を達成するという目標を掲げた。事故被害の深刻さや安全対策費を含めた費用の大きさについての認識が国民に広がったことが背景としてあり、再生可能エネルギーのコストが急速に低下したこと、再生可能エネルギー開発が雇用や技術開発で有益であるという認識もある(「【特集】原発大国スウェーデンの挑戦」共同通信、2018年5月17日)
ベトナムは、2016年11月、ロシアと日本による原発建設計画を撤回した。理由として、節電技術が進み、LNG(液化天然ガス)や再生可能エネルギーなどが競争力を持ち始めていることを挙げ、今後国内需要は十分賄えるとしている。
一方、再生可能エネルギーへの投資は拡大し、発電容量は指数級数的な伸びを示している。累積導入量で見ると、太陽光発電は2017年末には4億kW(400GW)と10年前の40倍以上に拡大し、原子力発電3.92億kW(392GW)を追い抜いた。(「2017年、太陽光発電はついに原子力発電を抜き去った」環境エネルギー政策研究所、2018年2月8日プレスリリース)
(2)高騰する原発建設コストと東芝の失敗
前述のように原発の建設コストは高騰し、もはや原発には経済性がないことが明らかになってきている。しかし、この重要な事実は記載されていない。経済産業省は、エネルギー政策にあたって、「3E+S」(安定供給:Energy Security、経済効率性:Economic Efficiency、環境:Environment、安全:Safety)を掲げているが、その重要な要素である経済効率性を検討する上で最も重要な情報を欠落させている。
たとえばトルコで三菱重工などが計画しているシノップ原発(4基)の建設コストは当初の2兆円が5兆円に、イギリスで日立が計画するウィルヴァ原発(2基)の建設コストは3兆円に倍増している。
東芝は、原発事業での巨額赤字により、経営危機に陥った。アメリカの原発子会社ウエスチングハウス(WH)を破綻させ、海外からの原発事業から撤退。なんとか持ち直したものの、収益性のあった半導体事業を手放すこととなった。
東芝は2006年にWHを買収した。当時は「原発ルネサンス」が喧伝され、アメリカでは多くの原発建設計画があったが、実際に電力需要は落ち込んでいた。福島第一原発事故のあとでさえ、CEO(最高経営責任者)のロデリック氏(当時)は、2030年までに海外から45基の原発建設が受注できるという現実離れした強気の姿勢を示していた。しかし、原発ルネサンスは実際には起こらなかった。破綻の直接的原因はアメリカでWHが手掛けた4基の原発建設が大幅に遅れて費用が膨らんだためとされる。
この東芝の失敗は、原発ビジネスにしがみつくことの危険性を如実に示しているが、こうしたことももちろん記載されていない。
(3)解決不可能な核のゴミ問題
使用済み核燃料の最終処分地は決まっておらず、それだけをもってしても、原発をこれ以上推進することができない十分な理由となるだろう。すでに各原発にある使用済み核燃料を入れたプールは満杯に近づいている。
青森県むつ市で「使用済み核燃料中間貯蔵施設」が建設中で、現在、原子力規制委員会による審査が行われている。当初計画では、供用期間である50年が経過したあと、「第2再処理工場」に運び出すことになっていたが、「第2再処理工場」構想はいつの間にか消えており、資源エネルギー庁の核燃料サイクル図からも消えている。結局、使用済み核燃料をどこに運び出すことになっているのか明確になっておらず、「中間貯蔵施設=核のゴミ捨て場」になってしまう恐れもある。
第5次基本計画には、核廃棄物について「対策を先送りしない」「国が前面に立って最終処分に向けた取組を進める」とのみ記載されているが、実際には、このところの動きとしては遅れに遅れて科学的特性マップ(地質学的特性や輸送面から処分場の適性度合いを4種類に塗り分けた地図)が公表されたのみである。現在、各地で意見交換会が実施されているが、NUMO(ニューモ:原子力発電環境整備機構)の委託先が謝礼金を払って学生を動員したり、東電の社員に参加を促したりする問題が相次いで発覚したが、そうしたことについては、もちろん書かれていない。
(4)すでに破綻した核燃料サイクルに巨額投資を継続
核燃料サイクルについて第5次基本計画は、「六ヶ所再処理工場の竣工遅延などが続いてきた。また、もんじゅについては、廃止措置への移行を決定した」と、さすがに厳しい現状を認めている。しかし、なぜか、続く文章で、「このような現状を真摯に受け止め、事業を安全に進める上で直面する課題を一つ一つ解決することが重要である」と精神論で片付け、核燃料サイクルについて引き続き取り組むこととしている。
「一つ一つ解決する」という課題が何のことなのか、それをどのように解決するのか不明である。
六ヶ所再処理工場の竣工は24回も遅延している。その建設費・運転・保守・解体にかかる費用は総額約14兆円に上る(「再処理等の事業費について」使用済燃料再処理機構、2018年6月)。さらに再処理の過程で大量の放射能が環境中に排出される。これらは国民に説明されていない。MOX燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料)の加工事業費は2.3兆円。これらの費用は、発表されるたびに増加している。
核燃料サイクルの要であったはずの高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)は、1兆円を超える国費を投じたのにもかかわらず、ほぼ稼働しないまま廃止措置が決まり(2016年)、さらに廃炉に1兆円以上かかりそうだ。