普通ならば、とっくに核燃料サイクルから撤退の議論が出て当然ではないだろうか。それについて検討されていない。
(5)再処理はプルトニウムを増やす
プルトニウムについて第5次基本計画は、アメリカが削減を要求したことなどを受けて、「保有量の削減に取り組む」と付け加えた。現在、日本が保有するプルトニウムは47トン。しかし、再処理を推進すれば、当然、プルトニウムが増える(六ヶ所再処理工場をフル稼働すれば年間最大8トン)。危険で高コストのプルサーマル発電(MOX燃料を原子炉で使う)で若干減らせたとしても微々たるものだ(現在稼働しているMOX燃料を装荷可能な原発4基を使っても年間約2トン)。さらに、使用済みMOX燃料は、一定期間経過しても発熱量が高く、通常のウラン燃料に比しても処分が難しい。処理のめどは立っていない。
(6)原発事故の甚大な被害
第5次基本計画では、福島第一原発事故に関しては、「被災された方々の心の痛みにしっかりと向き合い、寄り添い、福島の復興・再生を全力で成し遂げる」というようなことは書いてあるが、その事故の実態については具体的に書かれていない。
政府のこの認識のなさが、原発維持という不可解な政策を生み出しているのではないか。本来であれば、エネルギー白書やエネルギー基本計画の前に、「原発事故被害白書」や「被害回復基本計画」が必要なのではないか。
原発事故はいまだ継続中で、甚大で回復不可能な被害が広範囲にわたり生じている。ふるさとや文化、自然や人々のつながり、今までの暮らしが失われた。各地で住宅の提供を打ち切られた避難者が困窮し、貧困化している。被曝による健康リスクと不安が生じており、それを口にすることすらできない空気となっている。事故原因の究明は終わっていない。
廃炉・除染・賠償等の費用が膨れ上がり、政府試算でさえ21.5兆円(その根拠は公開されていない)、さらに上振れすると言われている。2200万立方メートルの大量の除染廃棄物は行き場がなく、除染土は8000ベクレル/kgを上限として全国の公共事業や農地造成で使うというような方針が出されている。
東京電力は、「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」を経由した巨額の公的資金や各地の電力会社からの資金により、延命している。それにもかかわらず、東電は原発事故被害者への賠償を値切り、ADR(裁判外紛争解決手続)の和解案を拒否し続けている。
こうした福島原発事故の解決不可能で今も続く被害を認識することが、第5次基本計画の出発点であるべきではないか。
「馬の耳に念仏」
このように現実を無視した第5次エネルギー基本計画だが、世論からも乖離している。世論調査のたびに、原発に関して否定的な意見が大半を占めている。閣議決定の前日(7月2日)に公表された、基本計画案に対して寄せられた主要パブリックコメントとその対応表を見る限り、論拠を挙げて脱原発の必要性を指摘する多くの意見に対して、基本計画案をコピペしているとしか思えない回答が多々見られる。まさに「馬の耳に念仏」状態だ。
このようなプロセスは、我が国のエネルギー政策の非民主的性格を表すものだ。基本計画の中では、「信頼の獲得」「信頼関係の構築」などの「信頼」という言葉が繰り返し使われ、また、「一方的に情報を伝えるだけでなく、丁寧な対話や双方向型のコミュニケーションを充実することにより、一層の理解促進を図る」としているが、まったくの空文だ。これが是正されない限り、エネルギー政策に対して、国民の信頼を得ることはできないだろう。
<主な参照資料>
第5次エネルギー基本計画
http://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180703001/20180703001-1.pdf
総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 第21回~第27回
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/
第5次エネルギー基本計画策定に向けたパブリックコメントの結果について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000175672
原子力市民委員会「原発ゼロ社会への道2017」
http://www.ccnejapan.com/?page_id=8000
eシフト「原発とエネルギー問題を考える12の疑問」
http://www.foejapan.org/energy/library/180509.html