「東京で考えられている理屈と、福島の現場で起こっている被害が乖離してきています。実際の被害と見合わない程度の額しか賠償されず、しかも個別に立証せよとなれば、倒産や廃業が増えることは明らかです」
東電はそれをすでに見透かしているようにも見える。「賠償の貫徹」を謳う一方で、東電は放出後に風評被害が起きた場合の対応について「個別の事情を丁寧にお伺いし、対応する」としている。このままでは、処理水放出に伴う被害者は、その被害を埋め合わせることすらできない。
もとより、福島県内は「賠償をどうするか」という段階にも及んでいない。2021年4月末には、JA福島中央会、福島県漁連、福島県森林組合連合会に加え、福島県生協連の4者が「県内全ての産業の復興が阻害されず、進展できるという確信が持てる状況になるまで海洋放出は容認できない」とする共同声明を出した。
一方で、関係閣僚は次々と福島県入りし、放出に向けた準備を着々と進める。海洋の監視強化、風評対策と正確な情報発信……。繰り返された言葉が踊る。対話のないままに、強行された海洋放出という決定。顧みなかった地元に、これから理解を求めるのであれば、2年という時間は、あまりにも短いように思う。
(敬称略)