環境と隣人のコミュニティを重視する姿勢は、ソストレ・シビックの集合住宅プロジェクト「シラレアス」も同じだ。こちらも太陽光パネルを設置して、電力の一部を再生可能エネルギーで自給し、建物全体の壁に通したパイプを流れる空気の温度を調節することで、室温を一定に保つ。また、共有スペースとして、物置き、洗濯場、ダイニングキッチン、テラス、コワーキングルームが設けられている。玄関に停めてある3台の電動自転車も、共有物だ。
近所付き合いが少ない都会育ちだという前出のエバさんは、共同体的な暮らしの要素を取り入れた住宅モデルは、「よりよく生きるために有効」と語る。
「住まいを持つ権利を保障する、という共通の目的のために協同するなかで、コミュニティが生まれ、日常的な助け合いができる人間関係が築かれていく。その一方で、各住人は自分の住まいを持ち、プライバシーも維持できる。普通に賃貸するより、ずっと安心な暮らし方です」
住まいを持つ権利を守る
この「公有地に住宅協同組合で利用権譲渡型集合住宅を建てる」試みは、現在、全国へ拡大しようとしている。バルセロナでの動きを、まずカタルーニャ州全体へ普及させようと動いたのは、同州内の様々な協同組合などが構成する「連帯経済ネットワーク(XES)」内の「住宅グループ」だ。XESでは、人の暮らしと環境を軸に据えた経済=社会的連帯経済を築くために必要なテーマごとにワーキンググループをつくっているが、住宅グループもその一つ。そこには、州内の住宅協同組合やそのプロジェクトを支援する建築関係者などの組織が集う。チームメンバーの建築設計士、ラリ・ダビさんは、住宅協同組合と自治体の連携が生まれた経緯を、こう説明する。
「ラ・ボルダのようなケースをきっかけに、私たちは、州内各地で協同組合による利用権譲渡型集合住宅の建設を考えていた人々をつなぎ、協同で公共政策に様々な要求や提案を届けることにしました。そうすることで、自治体からプロジェクトへの融資や公有地の提供を取り付けたのです」
収入の上昇率を超える住宅価格や家賃の高騰は、スペインの都市部に暮らす若者や一人暮らしの高齢者を中心に、誰もが直面している問題だ。その現実を前に、住まいを持つ権利を守るために考案された新しい住宅建設・運営のあり方は、将来、住宅を手に入れるための一つの選択肢となり、市場における住宅価格にも影響を与えるようになることが期待されると、ラリさんは言う。
「私たちが推進しているプロジェクトは皆、住宅を投機対象とすることに反対し、住宅価格の上昇を抑えること、そして、環境負荷の少ない持続可能な住宅を建て、人々が地元コミュニティで暮らし続けられる可能性を高めることを目指しています。こうしたプロジェクトが一般的になれば、住宅市場においても価格がある程度の水準に抑えられないと、誰も購入も賃借もしなくなると思うんです。“住宅は単なる市場の商品ではない”という考えをもっと広められたら、と期待しています」
スペイン全体では、自治体が土地を提供するケースは、まだ稀ではあるものの、ナバラ州やバスク州、マドリード州などでも、すでに現れている。XESの住宅グループが参考にしてきたデンマークなどでは、さらに普及しているようだ。
人の暮らしの安心・安定は、まず住まいを持つところから始まる。自らの住まいを持つ権利を保障するために、バルセロナ市民の試みから学ぶことは多い。