道路予算確保に2度の再可決
道路特定財源に充てられる揮発油税(ガソリン税)や自動車重量税のうち「暫定税率」が2008年3月31日に期限切れを迎えるため、政府・与党は期限切れ前に租税特別措置法改正案を成立させようとした。これに対し、民主党は暫定税率を期限切れに追い込み、国民の支持を得ると同時に、政府・与党が租税特措法改正案を「再可決」すれば、参院で首相問責決議案を可決し、あわよくば衆院解散に追い込むという作戦をとった。
政府は08年1月23日、租税特措法改正案を国会に提出。与党優位の衆院は2月29日に予算案と一緒に強行可決したものの、野党優位の参議院では審議入りが大幅に遅れ、3月31日、期限切れを迎えた。ガソリン税の暫定税率は4月1日から引き下げられた。
政府・与党が憲法59条に基づく「みなし否決」規定を56年ぶりに使って再可決したのは4月30日だったが、苦闘はなお続く。道路整備特例法案が成立しないとガソリン税などが道路予算に使えない。同法案は5月12日の参院否決を経て翌13日、衆院で再可決した。政府・与党は道路予算確保のため2度も再可決を強いられた。もろに「衆参ねじれ現象」に苦しめられたわけだ。
福田首相の“決断”は空回り
もちろん福田首相としても、手をこまねいていたわけではない。ガソリン税の暫定税率が期限切れを迎える前に動いた。首相は08年3月27日、自民党側の制止を振り切って緊急記者会見を行い、道路特定財源について「2009年度からの一般財源化」を打ち出した。もし国会の状況が冷静に政策協議を行う雰囲気の時なら、福田首相の新提案は野党にも魅力的に映ったはずだが、小沢民主党は政府・与党を早期に衆院解散に追い込むという「政局」的な対応に終始しているため、福田提案も事態打開の決め手とはならなかった。自民党の抵抗を押し切ってまで提案したにもかかわらず、福田首相の意気込みは空回り気味だ。
抵抗勢力「道路族」の思惑
そもそも道路特定財源の一般財源化は、小泉純一郎、安倍晋三の元前首相が取り組みながら、自民党「道路族」の厚い壁にはね返されて、ほとんど前進しなかった問題だ。その意味で、今回の福田首相の「一般財源化」方針は、構造改革の本丸に正面から切り込む画期的なものだ。にもかかわらず、なぜ小泉時代の道路公団民営化の時のように、党内の抵抗が弱いのか。
それは、現在の「道路政局」が一種の権力空白の状況下で演じられているためだ。抵抗勢力である道路族としては、福田首相が年末の予算編成までサバイバルできるかどうか、とタカをくくっているふしもある。
民主党が「いくらでも協議には応じるが、与党の正式決定がないものを協議するわけにはいかない」(4月9日党首討論で小沢代表)と指摘したのも当然だ。野党向けには首相提案を前面に立てて協議に誘い込みつつ、党内的には党議決定をしないことで道路族との対決を回避しようという思惑も透けて見える。
野党の要求を受けて福田首相は5月13日、「2009年度からの一般財源化」を閣議決定したが、それが道路整備特例法案の衆院再可決と同じ日だというところがみそだ。道路族としては、同法さえ成立すれば08年度の道路財源は確保されたとひと安心だ。09年度以降の一般財源化は税制の抜本改革とセットになっており、そんなにすんなりと着地するとは見ていない。「一般財源化は二枚舌」(鳩山由紀夫民主党幹事長)という見方もあながち的外れではない。一般財源化の行方は依然、不透明だ。
暫定税率
暫定的に本来より上乗せされている税率。揮発油税、地方道路税、自動車取得税、自動車重量税、軽油引取税に適用されている。1973年の第1次オイルショック(石油危機)をきっかけに、田中角栄内閣時代の74年に制度化された。当初は石油の消費抑制や環境対策などを意図しての暫定措置だったが、以後、道路整備に伴う財源を確保するために更新されてきた。
問責決議
参議院で首相や閣僚の責任を問う決議。衆議院の不信任決議に相当するが、参議院の場合は憲法で定められたものではない。これまで問責決議案は59件提出され、採決されたのは33件。そのうち可決されたのは、1998年に防衛庁不祥事をめぐって額賀福志郎防衛庁長官に対して提出された1件だけ。
みなし否決
憲法59条には、衆議院で可決した法律案を参議院が異なった議決をした場合、「衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる」と定めている。この「再可決」の要件には、衆議院で可決した法律案を、参議院が否決した場合と、参議院が国会休会中の期間を除いて60日以内に議決しない場合がある。後者は「衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる」と明記されていることから、「みなし否決」と呼ばれている。