給付金も交付金も二転三転
政権発足から約1カ月後の10月30日、追加経済対策を発表したころの麻生首相はまだ元気だった。11月14、15日の両日ワシントンで開かれた緊急金融サミットに出席したときも、他国に先んじて打ち出した財政出動策や、IMF(国際通貨基金)への10兆円拠出表明など意気軒高だった。ところが、帰国した麻生首相を待ち受けていたのは針の筵(むしろ)。しかも、その種をまいたのは首相自身だった。先の追加経済対策のなかで打ち出した「生活安心定額給付金」について、所得制限を設けるか否かが議論になり、麻生首相の方針が二転三転した。
最終的には、法的な所得制限を設けず、自主的な辞退にとどめることになったが、その所得金額や辞退を促すかどうかも含めて市町村側に任せるという、実に無責任な決定となった。最終決定のプロセスでは麻生首相の「顔」は見えずじまいだった。
道路特定財源を一般財源化するうち「1兆円」について、麻生首相はいったん地方自治体が自由に使える「交付税」とする考えを表明した。ところが、自由民主党側から反発されると、すぐに「地方が自由に使えるお金なら何でもいい」と後退。その後にまた「交付税」を主張したりと右往左往。最後は、自民党側が一方的に「新交付金として1兆円」で決着させ、ここでも麻生首相の面目は丸つぶれだった。
漢字誤読に失言、党首討論も押され気味
基礎年金への国庫負担割合の引き上げ時期の問題や、郵政会社グループの株式売却問題でも、麻生首相の発言が大きくぶれたため混乱した。経済政策の策定はダッチロールを繰り返した。さらに、麻生首相の「頻繁(はんざつ)」や「未曾有(みぞうゆう)」との誤読、戦争責任に関する村山富市首相談話の「踏襲(ふしゅう)」答弁も報じられた。「空気が読めない」だけでなく「漢字が読めない」という「ダブルKY」状態に陥った。
麻生首相と民主党の小沢一郎代表との党首会談が11月17日行われた。小沢氏が第2次補正予算案の今国会提出を求めたのに対して、麻生首相は明言を避け、物別れに終わった。
11月28日、論戦は舞台を党首討論に移して再度行われた。党首会談と同様に「第2次補正予算案」と「早期解散の有無」をめぐって攻防を展開した。本来なら討論で小沢氏を圧倒するはずだったが、二転三転した発言による反省から“麻生節”を封印してしまい、党首討論は終始、小沢氏に押され気味だった。
内閣支持率20%台急落で赤信号
そんななかで、報道各社が12月8日付朝刊で一斉に報じた世論調査結果はショッキングだった。各社の内閣支持率は、共同通信25.5%、朝日新聞22%など軒並み20%台となった。そもそも内閣支持率は、(1)30%ライン割れ、(2)支持と不支持の大幅逆転、(3)10ポイント以上の急落、で政権に赤信号が点灯する。支持率だけから言えば、政権発足からわずか2カ月半で政権末期状態に陥ってしまったと言える。
そのうえ麻生首相個人にとって大きな打撃となったのは、「首相にふさわしい人」の質問で、これまでは小沢氏にダブル・スコアで上回っていたのに対し、今回、小沢氏が34.5%と、麻生氏の33.5%を上回ったこと。“党首力”だけなら民主党の小沢代表を圧倒できるとの自信が打ち砕かれた。
自民党内で「反麻生」の動きが活発化
自民党内には「麻生首相では総選挙を戦えない」との空気が充満しつつある。“アンチ麻生”の会合が相次いで開かれるのもそのためだ。渡辺喜美氏ら若手中心の「24人の会(速やかな政策実現を求める有志議員の会)」や、小泉純一郎元首相と中川秀直元幹事長らによる“郵政民営化推進派”の会合、中川秀直氏が中心となった「生活安心保障勉強会」などが相次いで旗揚げした。政局絡みの動きが活発化してきた。ただ、彼らにも自民党を脱党して新党結成に走る力があるかどうか。政界再編に至るのかどうかは全くの未知数。さりとて総選挙なしで首相を3度も取り換えるのは「憲政の常道」に反する。自民党は政権の出口さえ見つからない八方ふさがりの状態だ。そうなると案外、小沢氏が酒席で言及したという「超大連立」の選挙管理内閣が選択肢の一つかもしれない。